植田と岩波、好対照な個性を持つ大型CB 再結成したコンビが見せたそれぞれの成長

川端暁彦

U−21代表のストロングポイント

アジア大会でCBのコンビを組んだ植田(写真)と岩波は、U−21日本代表においてストロングポイントだった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 桜木花道みたいな奴だ。

 U−21日本代表DF植田直通(鹿島アントラーズ)を見て思ったのはそんなことだった。1990年代を代表するバスケットボール漫画である『SLAM DUNK(スラムダンク)』において、主人公・桜木花道は、バスケ初心者でありながら破格の身体能力と抜群の闘争心、そして“戦闘センス”の良さで、最初は馬鹿にされながらも、急成長を遂げて一目置かれる存在となっていった。植田から、少しばかり似たものを感じたのだ。

 その植田とセンターバック(CB)のコンビを組んだ岩波拓也(ヴィッセル神戸)が流川楓(桜木のライバルキャラ)だったかは定かではないが、この好対照な性格を持つ同じ登録身長(186センチ)の2人が、アジア大会を戦ったU−21代表におけるストロングポイントだったことは間違いない。

 終了間際にPKを与え、結果として0−1の敗北に終わった準々決勝・韓国戦。攻撃面でさしたる脅威を与えられぬままに敗れたゲームだったと評することも可能だが、守備面で相手を追い詰めていたゲームでもあった。ロングボールからラッシュを仕掛けるのが韓国サッカーの伝統だが、1トップを張るイ・ヨンジェに対して日本のCBコンビはほぼパーフェクトに制空権を握り続けた。上空の争いで勝てなくなった相手がファウル狙いで競るのを辞めるのを見たとき、「ヘディングの主導権を握りたい」と語っていた植田の言葉が現実化したことを実感した。

折れない心と突き抜けた向上心を持つ植田

代表の中でも植田のヘディングの“うまさ”は際立っている。韓国戦も制空権を握り続けた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「(空中戦は)負ける気もしないし、そこで負けたら僕は何の役にも立たないと思います。まずはそこで勝ってチームを勢いづかせたい」

 韓国戦を前にそんなことを語った植田の言葉には、まさに彼のプライドが凝縮されている。決して“うまい”選手ではない。たゆまぬ努力で磨かれたロングフィードの精度は大きく向上したが、足元の細かい技術があるわけではないし、ディフェンスラインでのボール回しで何か特別な貢献ができるタイプではない。かつてはテコンドー選手としても将来を期待されたほどの勇猛果敢さは、時として裏目に出ることもある。ミスの少ないタイプではないし、韓国戦でも実際に彼のミスが招いた危険なシーンはあった。

 だが、ヘコまない。折れないのだ。ミスの後のプレーというのは誰しも消極的になるものだが、植田には「ドンマイ」なんて言葉は必要ない。誰に言われるまでもなく、次のプレーでは再び勇猛な選択を見せ、相手FWへと襲いかかっている。植田が持つ類いまれな資質がそこにある。

 取材対応は至ってぶっきらぼうで言葉少なく、韓国戦では「ごめんなさい」の一個を小さく残して記者たちを振り切ってバスへと乗り込んでもいった。ただ、そのプレー内容はいつでも雄弁だ。初めて植田のプレーを本格的に見たのは、彼が高校1年生だった豊田国際ユース(U−16)大会だったと記憶しているが、代表に呼ばれたばかりで、一番ヘタクソなDFがミスを恐れず、対峙したアルゼンチン代表のユニホームに怯えることもなく戦い抜く姿には、驚くと同時に大きな感銘を受けたものだった。あの頃から、その姿勢は変わってはいない。

 アジア大会の最中、チーム練習の後に(あるいは合間に)独りでヘディング練習に励む植田の姿があった。「やらないと落ち着かない」のだという彼にとっての日課は、その突き抜けた向上心の表れなのだろう。イラク戦を前にした練習でCB候補の選手たちにロングボールを弾き返す練習が課せられることがあったが、前に弾くのも一苦労という選手もいる中で、そのヘディングの“うまさ”は際立っていた。図抜けた身体能力だけではない、彼が培ってきたモノの確かさが表れた一コマだった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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