金メダルのみを見据えて戦う川内優輝 アジア大会・男子マラソンに挑む

折山淑美

ライバルはバーレーン勢とモンゴル選手

2時間6分台の記録を持つバーレーンのデチャサ。まだエントリーが発表されていないが、出場すれば最大のライバルとなる 【Getty Images】

 現状、エントリーリストが確定していないが、今大会のライバルは2時間6分台の記録を持つエチオピア出身の帰化選手であるシュミ・デチャサ(バーレーン)と、2時間9分台の記録を持つセルオド・バトオチル(モンゴル)らとなる。

 だが川内は、これまでの世界大会とは仕上げの方法を若干変えたと自信を持つ。
「今までとの違いは距離の長いレースを入れてきたことですね。パースのフルマラソンもそうですが、夏場にはトレイルランを取り入れて、最低でも3時間で長い時は6時間も山の中を動くようにしてきたので。毎年の課題として夏場になると練習で距離不足になるというのがあったけど、今年はそれ以外に40キロ走も多く入れているので、日本代表としてレースに向かう前としては過去最高のロング走を入れた状態です。それが体を絞るにも有効に働いていて、今は体重も若干落とせていますから」

 もともと暑さには弱いという意識もあり、夏場の走り込みは減る傾向があった。だから今回はあえて、スピード練習がうまくいかないことは目をつむり、距離を稼ぐことの方を重視してきたのだ。
「それでも9月に入ってからはスピード練習もできるようになって調子が上がってきているから、いい感じで秋のレースを迎えられると思っています。夏の間には4〜5本しかできなかった1000メートルのインターバルも、それなりに設定通りにはできるようになっていますから、あとは敵だけですね」

 こう言って笑顔を見せる川内によれば、5月のハンブルグ・マラソン(ドイツ)で負けたことのあるバーレーンのデチャサは2時間6分台の記録を持つだけでなく、ハーフマラソンは59分台で、1万メートルも27分42秒とスピードを持っているランナー。またもうひとりのバーレーン選手は初マラソンだが、ケニアからの移籍選手で、1万メートルは27分台の記録を持っており、波に乗せてしまうとどう走るか分からない怖さもある。
「幸いなのはバーレーンの選手(デチャサ)が2時間6分と7分で走ったことはあるけど、それはペースメーカーがいてのレースだから、今回はそこまで速くないはず。ただ、日本選手が前に出てペースメーカーのような役割を果たすような展開になれば、バーレーンの選手は30キロ以降からのロングスパートもあるし、5キロを14分20秒くらいで行くくらいの力はあると思うので……。ラスト10キロを28分台で上がられたらかなわないですね。だからそれまでに彼らの脚を中盤のアップダウンなどでどこまで削っておけるかが鍵です」と語る。

宗猛部長も川内の状態に太鼓判

 さらに川内は続ける。「もうひとり、ライバルとなるモンゴル選手(バトオチル)はアップダウンが強いから、他力本願ではないけれど、彼が中盤で揺さぶってくれ、それに上乗せして僕たちも揺さぶるような形になってバーレーン選手の脚を削って早めに脱落させれば、モンゴル選手とは精神力の勝負になるから、勝ち目も見えてくる。もしバーレーン選手を30キロくらいまでで離すことができなければ、ラストまで我慢して我慢して勝負するという形にするしかないですね」

 表情や体の締まり具合を見ても好調だと思える川内。日本陸上連盟の宗猛男子長距離マラソン部長は「これまでは早朝に一人で練習に行っていたので見てなくて、今回初めて川内の最終調整を見た」と前置きしてこう話す。
「レースをイメージして練習をやっているなと思いますね。パースでフルマラソンを走ったあと、陸連合宿で40キロ走をやり、こっちへ来る前に田沢湖で20キロを走っているので、流れから見るとかなりいい流れできているなと思います。それに昨日の練習を見ても、6000メートルまでは3分2秒ペースで行って、最後の1000メートルは2分42秒で上がっているので順調だと思います」

 こう話す宗部長は「川内は自分でプレッシャーをかけてモチベーションを上げるタイプだから……」と言って期待を寄せる。

 優勝した場合に与えられる来年の世界選手権代表内定を目指す川内や松村。彼らがバーレーン勢やモンゴル勢と戦うレースは、3日の午前9時、号砲が鳴る。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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