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アジア男子の9秒台争いに新時代到来
日本勢は新たなエース候補が名乗り

大会前に勢力図が塗り替わる

男子100メートル決勝はオグノデが9秒93のアジア新で制した
男子100メートル決勝はオグノデが9秒93のアジア新で制した【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 モンゴロイド(黄色人種)で一番最初に“10秒の壁”を破るのは誰か。


 これは、昨夏にロシアの首都モスクワで行われた陸上競技の世界選手権で、中国の張培萌が10秒00を出し、後輩の蘇炳添も準決勝に進出してから一気に関心の高まっている話題だ。日本では、昨年4月に桐生祥秀(当時洛南高、現東洋大)が10秒01を記録し、2012年のロンドン五輪で日本人五輪最高の10秒07を出していた山縣亮太(慶應大)とともに、先に照準を合わせていたはずだったから、日中の争いが激化する構図となった。

 だから、アジア大会(韓国・仁川、19日〜10月4日)は、両国の4人の直接対決が見ものとなるはずだった。


 ところが、状況は急速に展開する。

 桐生が直前の日本インカレの200メートルで左大腿部裏を肉離れして出場を辞退。その一方で、ナイジェリア出身でカタールに国籍変更したフェミ・オグノデが10秒0台を連発し、優勝候補筆頭の勢いを加速させていた。

 黒人のオグノデを中心に、9秒台を巡って山縣、張、蘇、そして桐生の代わりに出場を認められた高瀬慧(富士通)らがどう追随するかに勢力図は塗り替わっていった。

9秒台の走りを見せつけたオグノデ

 果たして結果は。

「アフリカの一部地域にルーツを持つ黒人が100メートルという瞬発系の最たる競技で圧倒的に強く、モンゴロイドが対抗するのは困難だ」という常識が覆ることはなかった。オグノデが猛威を振るい、モンゴロイドの9秒台の夢を蹴散らした格好となった。


 オグノデの強さは明らかだった。27日の予選を10秒14(向かい風0.2メートル)の全体トップで抜けると、翌28日午後7時からの準決勝は、一気に10秒02(追い風0.2メートル)までタイムを伸ばした。ダイナミックなフォームが力強く、ラストは楽に惰性で駆けていたから、2時間半後の決勝では、あとほんのちょっと力を加えるだけで、9秒台はほぼその手中にあると言えた。


 あとは、どこまでタイムを伸ばせるかだった。集中力を高めて、準決勝で大きく出遅れたスタートの反応を修正。伊東浩司の大会記録10秒00、カタールの先輩のサミュエル・フランシスのアジア記録9秒99をはるかに上回り、9秒93(追い風0.4メートル)に到達してしまった。もちろん金メダル。10秒10の蘇が銀メダルで、10秒15で続いた高瀬が銅メダルを獲得した。張は伸びずに10秒18で4位。山縣は準決勝で左股関節を痛めたことが響いて10秒26の6位に沈んだ。


 オグノデは、前回の広州大会で200メートルと400メートルの2冠を獲得したが、11年にドーピング違反が発覚。2年間の出場停止処分が明けてから、100メートルでの快進撃が始まった。会見では「常に自信を持っていた」と語った。


 スタートはぎこちなくて、はっきり言ってへたくそ。それでいてこの強さというのが、一層の進化と、9秒8台突入も、というスケールの大きさを予感させる。アジアの男子100メートルに新時代の到来を告げると同時に、9秒台の走りというものがどういうものかを見せつけた。高瀬は「一瞬見えた時にはもういない。9秒台のトップスピードは明らかに違った」と言い、山縣は「9秒台ってこんなに速いんだ、ということが最初から体感できた。ただただ速かった」と脱帽するしかなかった。

高野祐太

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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