原博実が示す“世界ベスト10”への課題 技術委員長時代に残した功績と後悔

宇都宮徹壱

アジアカップでのノルマは設けない

ロシアW杯に向け、アジア予選のフォーマットが変更されることが想定される。カレンダーが変わり、代表強化はさらに難しくなる 【宇都宮徹壱】

――カレンダーに関してですが、4年後のW杯に向けたアジア予選のフォーマットが変わるようですね。まだ決定ではありませんが、漏れ伝わってくる情報では、ブラジル大会よりもさらに強化スケジュールが難しくなりそうに感じます。

 難しくなりますね。単純に(予選の)試合数が増えますから。新しいAFC(アジアサッカー連盟)会長である シャイフ・サルマーンさんは、ランキングが下の国にも一発勝負ではなくて欧州のようにリーグ戦をやらせたいという意向を持っています。1次予選で5チームやるとして、ただでさえインターナショナルマッチデーが少ない中、ランクの低いチームとの試合が多くなると、強化の面で非常に難しいです。

――とりあえず1次予選は東西に分けてやるというのは決定事項なんですよね?

 まだ決定ではありません。もしそうなると、東のほうは最終予選に出るチーム数が減らされる可能性がある。12チームが進出して(東西の割合が)6対6だと思ったら、4対8になるかもしれない。そこの部分がどうなるかは、まだ決まっていません。ただ間違いなく言えるのは、余計に試合数を取られちゃうし、1次予選は拮抗(きっこう)した試合は減ってしまう。(強化という意味で)このフォーマットは簡単じゃないです。

――強化を目的とした試合が少なくなるのが必至となると、あらためてアジアカップの重要性は増してきますね。来年1月のアジアカップでは、アギーレ監督に何かしらノルマは設定されているのでしょうか?

 アジアカップのノルマは特に設定していないです。たとえば優勝しなきゃダメだとか、そういうのは考えていないです。(監督に求められるのは)まずは予選。特に1次予選以降の試合をしっかり戦えるかどうかが基準になると思います。

――アギーレ監督との契約は、とりあえず2年という理解でよろしいんでしょうか?

 契約の内容は言えません。当然、ロシアを目指したものにはなっていますけれど、ちゃんと見直すような契約内容になっています。ただ、アジアカップにノルマを設けないのは、そこで優勝と義務付けてしまうと、思い切った選手起用ができなくなる恐れがあるからです。

 アジアカップはもちろん大切な大会ですよ。だけど、もっと大事なことは日本代表の力を向上させることなんです。来年の1月の時点でメンバーを固めるんじゃなくて、その先を見据えながらいろいろな選手を試したり、競争させたりすることなんです。皆さん、もう忘れているかもしれないけれど、アジア予選は決して簡単ではない。ですから、まずはW杯に出場することですよ。

技術委員長時代に最も悔いが残ったこと

技術委員長時代に最も悔いが残ったことは、ブラジルW杯でのグループリーグ敗退。原氏はこの悔しさが次につながると信じている 【宇都宮徹壱】

――今回のW杯では、まずはベスト16に行きたいとおっしゃっていましたが、4年後のロシア大会では、どのあたりを協会として目指しているのでしょうか?

 JFAの2005年宣言では、本当は「2015年までには世界のトップ10に入る」という目標を掲げているんですよ。それはどういう意味かというと、トップ10に1回入ればいいというのではなくて常に入っているということなんです。ということは、W杯でもベスト8以上に絡んでいくことができる戦力があるということ。世代交代がうまくいかずに一時的に低迷することがあっても、常にW杯でベスト4に入ってくるドイツみたいにね。次のロシア大会までには、そこまでの力を付けていたいけれど、もちろんそれは簡単ではないことも分かっています。百年以上の歴史があるイングランドやイタリアだって、グループリーグで負けてしまうことがあるわけですから。

――逆に今大会のベルギーのように、ベスト8の常連ではないけれど、各ポジションにタレントがそろったチームがW杯で躍進するケースはこれまでにもありました。地道な育成はもちろん重要ですが、それに加えてもっとスケール感のあるタレントが出てきてほしいところですね。

 そうですね、日本の指導者は本当に真面目な人が多いぶん、やっぱり選手が平均化してしまう傾向がありますね。中盤にはいい選手がそろっているけれど、もっとスペシャルな才能を持ったストライカーとかセンターバックとかね。そういうタレントがもっと出てきて欲しい。そうなれば世界のトップ10に入る可能性がずっと高まってくると思います。

――技術委員長を退任するにあたり、ご自身でやり切ったと満足していること、逆に悔いが残ったことを1つずつ挙げていただけますか?

 満足というか、自分が入って良くなったと思っているのは、Jリーグや各クラブと協会との関係ですね。僕自身がJリーグで育ってきたこともあるんですけど、Jリーグやクラブと一緒になって日本のサッカーを強くしていこうっていう関係性は構築できたと思います。それはA代表だけでなく、五輪代表だったり、アンダーカテゴリーだったりの部分でも、いい協力関係はできたと思います。

――確かにそうですね。では、悔いが残ったことは何でしょう?

 やっぱりブラジルでグループリーグを突破できなかったことですよね。それだけの力はあったわけだから。たださっき言ったように、コンディションとかメンタルとか運とか、いろいろな要因でそれができなかったことが悔しい。4年前(南アフリカ大会)にやったサッカーでグループリーグを突破すればよかったというと、それも違うと思っています。

 岡田(武史)監督のやり方を、決して否定しているわけではないです。むしろあの時は、ああいう現実的な戦い方をすることで予選突破ができた。あそこで結果を出せなかったら、おそらく僕はこの場に居なかったかもしれませんね。日本のサッカーを考えた時に、いつまでも相手に合わせるサッカーでいいんだろうか。やっぱり、自分たちが主導権を持って攻撃と守備をするというサッカーをどこかでチャレンジしていかないと、というのはありました。結果は出ませんでしたけど、この悔しさは決して無駄にはならない。次につながると信じています。

<この稿、了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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