“手倉森イズム”を感じたラウンド16 威信を懸けてくる韓国戦の勝機と重要性

川端暁彦

主導権を握り続けたパレスチナ戦

ラウンド16のパレスチナ戦で先制点を挙げたボランチの遠藤 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「もうちょっとガツガツくるかなと思っていた」(FW野津田岳人/サンフレッチェ広島)
「もっとプレッシャーを掛けに来ると思っていたんですが、思ったよりも来なかった」(MF原川力/愛媛FC)

 拍子抜けと言ってしまっては失礼なのかもしれないが、9月25日のアジア大会決勝トーナメント・ラウンド16は、思ったほどの歯ごたえがないままに日本の完勝(4−0)に終わった。パレスチナ代表は確かに「オーガナイズされて、整っている」(手倉森誠監督)という事前情報通り、組織的に守る意図の見えるチームではあった。ただ、逆に個々の激しさや粘り強さはなく、攻撃もつなぐ意志があるだけに遮断しやすい。単純にラフに、そして素早く蹴り込んでくるイラクのような厄介さは感じられず。妙な言い方に聞こえるかもしれないが、日本にとってはやりやすいくらいの相手だった。あるいは、決勝トーナメント進出を決めた段階である種の満足感があったのかもしれない。

 17分には面白いようにボールをつないだ攻めから、最後はMF遠藤航(湘南ベルマーレ)がFW鈴木武蔵(アルビレックス新潟)のリターンパスを受けて右足シュートを突き刺して先制点を奪い取る。通常は中盤の底に位置する遠藤が、流れの中で危険地帯まで攻め込んでいけた事実が、日本の攻勢を象徴しているともいえるだろう。「今日はたくさんボールを触れました」と原川が笑顔で語ったように、日本は簡単にトライアングルを作ってパス交換。試合の主導権を握り続けた。

現れた練習の成果

チームとして練習に取り組んだ二次攻撃が実を結び、27分に鈴木(中央)がヘディングで追加点を挙げた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そして27分に追加点。コーナーキックのこぼれ球を拾っての二次攻撃で、右サイドの原川が上げたクロスを中央で鈴木がヘディングでたたき込む。鈴木は185センチの長身ながらヘッドを苦手としてきた選手だが、ここは見事に決めてみせた。所属する新潟の柳下正明監督には以前から弱点克服の指示が出ていたそうで、居残り練習などに取り組んできた成果が出た格好だ。

「すごく自信になる」と語るエースストライカーの一発は、手倉森監督が取り組んできた練習の成果でもある。ビルドアップからフィニッシュまで持ち込む練習はいろいろなチームで見る形だが、手倉森監督は攻撃が失敗に終わったあとの二次攻撃をシミュレートする形も繰り返していた。攻撃が失敗となった瞬間にサイドの選手へ「アゲイン」のボールを蹴り出すと、ペナルティーエリア付近に残っていた選手は一斉に動き直す。入ってくるクロスを何としてでも押し込むという形を繰り返していた。

 今回はセットプレーなのだが、攻撃失敗後に中の選手たちが一斉に動き直してクロスに合わせていく形はまさに同じ。練習での意識付けのたまものといえるゴールだった。ビルドアップからフィニッシュへ持ち込んでいくパターン練習は、「きれいに崩すための練習」になりがちなのだが、手倉森監督はあくまで「点を取る」という部分を強調する。「きれいな崩しが失敗したら泥くさく取ればいいんだ」とでも言いたげなトレーニングは、“手倉森イズム”を感じさせるもの。その結実ともいえるゴールについて「トレーニングを生かせるだけの選手がそろっている」(手倉森監督)と語った言葉は、意外に本音かもしれない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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