「連覇は当然」のなでしこが残す余力 女子W杯に向けて少しでも上積みを

川端暁彦

結果として幸いした中国戦のドロー

連覇を狙うと同時に、佐々木監督は若い選手の活躍に期待している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 中国との初戦がスコアレスドローに終わったことも、結果として幸いしたかもしれない。「(中国と引き分けたが)逆に言うと、ヨルダン、チャイニーズ・タイペイに必死さを持って戦えたのは良かった」(佐々木監督)。2強2弱のグループにあって得失点差勝負になることが初戦で自明となっただけに、残る2戦が“消化試合”と化すことはなく、経験のない若い選手がプレッシャーを感じながらプレーできたこと。それ自体が一つの収穫だった。

 経験値においてチームの「中堅」に位置する右サイドバックの有吉佐織は「引き分けていいかは分からないですが」と念押ししつつ、こう振り返る。

「中国に勝てていたら、もう少し楽に(グループリーグの試合を)運べたとは思いますけれど、引き分けたことでみんなが積極的に『しっかり声を掛け合いながら一つひとつのプレーを合わせていこう』ということができた。そういう意味でちゃんと集中できていた残り2試合だったと思います。初めての選手も多い中で、練習の中でも声を掛け合うことがすごく増えたし、ミーティングでも『こうしたほうがいい』とか、そういう声が出るようになった。結果として、トーナメントに向けてのいい試合ができたと思います」

 スコアを見ればヨルダンには12−0の圧勝であり、チャイニーズタイペイには3−0。力の差は歴然としており、悪い意味での「余力」を持った試合になってしまう恐れはあった。だが、19歳の増矢が好機でミスを連発してしまったことからも分かるように、若い選手には「点を取らなくては」という強烈なプレッシャーがかかる状況での試合になり、彼女たちが大きな経験値を積み上げる機会とはなった。完全に結果論ではあるのだが、初戦の結果で生まれた危機感はチームの成長という意味でポジティブに作用していた。

「伸びてほしい伸びしろ」が若手にはある

 とはいえ、「もっと若い選手に(点を)取ってほしかった」と佐々木監督が漏らしたように、そのプレッシャーをはね除けてまばゆい輝きを放つような新星が出てこなかったのは少々残念な部分ではある。FWにコンバートされてゴールを量産した阪口のプレーに象徴されるように、女子W杯優勝メンバーの地力と経験値が抜きん出ているだけに、なおさら悪い部分が目立ってしまう不幸もあるとは思う。ただ、決勝トーナメント、そしてその先のことを考えると、なでしこジャパンにおける「伸びてほしい伸びしろ」が若手にあるのは間違いない。

「優勝した経験のある選手とまだしていない選手とを融合しながら、いいプレッシャーの中でどれだけ自分の持っているモノをできるかが、これから先につながる」(佐々木監督)

 1位通過となったことで、日本の準々決勝の対戦相手はA組かC組の3位チームとなる。インド、香港、ベトナムのいずれかが相手となるが、それらのチームのグループリーグでの大敗ぶりを思うと、なでしこジャパンに対抗できる戦力はないだろう。くしくも佐々木監督が手強いチームとして挙げた韓国、北朝鮮、そして中国の3カ国はいずれもトーナメント表の反対側に位置することとなった。

 油断大敵とはいえ、やはりある程度の「余力」を持って戦える決勝トーナメントになったことは間違いない。連覇を目指すことは「まあ、当然のこととして」、来年6月の女子W杯を見据えて、チームとしてどれだけの上積みができるかどうか。世界チャンピオンのなでしこジャパンは少しだけ上と先を見据え、アジアの舞台を戦うことになる。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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