悔しさを晴らす場となったネパール戦 連携の向上とメンタリティーの成長を示す

川端暁彦

ネパール戦は「控え選手を起用するかどうか」

アジア大会の第3戦はネパールに4−0で勝利。グループリーグ突破を決めた 【Getty Images】

 アジア大会男子サッカー日本代表は21日、グループリーグの第3戦を迎えていた。対戦相手は、ネパール。インドと中国の間に位置する南アジアのこの国については、対戦を控えた選手が「正直、よく知らない」と漏らしていたように、国としてのなじみは少々薄いかもしれない。「ヒマラヤ山脈のある国だよ」と教えたら少しイメージできたようだったが、サッカー的にはそれほど実績のある国ではなく、無理もないところだろう。

 実際、今大会のネパールは3人のオーバーエイジ選手を含む編成ながら、初戦でイラクに0−4と敗れ、第2戦ではクウェートに0−5と大敗。グループの中で一段落ちる相手であることは明らかだった。

 そんなネパールとの試合を前にした日本側のポイントは幾つかあるが、もっとも大きなものは「控え選手を起用するかどうか」の一点だった。1勝1敗で迎える第3戦なのだから、セオリーからいけばメンバーを落とすのは邪道だろう。ただ、ネパールとの力の差を思えば、また得失点差を稼ぐ必要のない状況であることを思えば(勝てば無条件で決勝トーナメント進出が自動的に決まる状況だった)、ここで控え選手を試しておくのは一つの手だった。出場できていない選手には大きなストレスが蓄積するものだし、単純に決勝トーナメントへ向けて主力を休ませる効用もある。手倉森誠監督も「イラク戦に勝っていれば、第3戦は控え組を出すつもりだった」と率直に認めていた。

心理面をケアした手倉森監督の狙い

 その上で、ほぼメンバーの入れ替えはなかった。サッカーが番狂わせの多いスポーツであることを案じて「石橋を叩いて渡る」発想から替えなかった。そう解釈する向きもあったと思うが(もちろんその一面もあるだろうが)、手倉森監督の主たる狙いは心理面にあった。

「悔しさを味わったメンバーに、悔しさを晴らす機会を与えたい」

 イラク戦は選手たちにとって内容的に手応えのないゲームではなかった。それだけに1−3という結末と、試合後の報道には大きなストレスを感じている様子があった。「『完敗』とは思っていない」と強い口調で語ったFW鈴木武蔵(アルビレックス新潟)にしても、あるいは「あれだけチャンスを作ったのに、『完敗』と書かれてしまうんだよね」と、おどけてみせた手倉森監督本人にしても、「鬱屈(うっくつ)」という名の燃料を貯め込んでいる様子はあった。

 恐らく指揮官はここで主力をベンチに落としてしまうことに、ある種の心理面でのリスクを感じていたのだろう。「(イラク戦後は)すぐにでも試合をして、すぐにでも決勝トーナメントを決めたいという気持ちだった」と語る指揮官の気持ちを反映したスターティングイレブンは、控え組を試すという視点があったのはGK牲川歩見(ジュビロ磐田)をポープ・ウィリアム(東京ヴェルディ)に切り替えた1点のみ。ポープは負傷者が出ての追加招集だったため、国内での事前合宿やそこでの練習試合にも出場できていなかった選手。このチームでの実戦から離れてしまっていただけに、決勝トーナメントでの緊急事態に備える意味で、ここで試合を経験させておきたかったということだろう。フォーメーションは、イラク戦の終盤で機能していた4−2−3−1を採用。技巧的で仕掛けるプレーが魅力の中島翔哉(FC東京)をトップ下に置いた攻撃的な陣形で、イラク戦の“憂さ晴らし”を狙う試合は始まった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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