手堅く切り抜けたクウェート戦で得たもの 課題と収穫、GL突破に近づく勝ち点3

川端暁彦

手倉森監督「手堅さを求めた初戦」

3−4−3を採用した手倉森監督。守備の強度を高め「手堅さを求めた初戦」となった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 9月14日、韓国仁川広域市にてアジア大会の男子サッカー競技が幕を開けた。U−21日本代表が乗り込んだのは、韓国・Kリーグの仁川ユナイテッドが本拠地として使う仁川フットボールスタジアム。2012年にこのアジア大会に向けて完成したばかりだという真新しいサッカー専用競技場で、若き日本代表の挑戦は始まった。

 先発の陣容は西野貴治(ガンバ大阪)を中央に、右に岩波拓也(ヴィッセル神戸)、左に植田直通(鹿島アントラーズ)を配した3バック。大会前に行われた最後の練習試合(対全日本大学選抜)ではA代表と同じ4−3−3のフォーメーションを採用していたが、率直に言って機能していなかった。先を見据えれば自分たちのものにしておきたいフォーメーションではあるものの、星を落とせば一気に突破が苦しくなる初戦で採用するには余りにリスキーということだろう。手倉森誠監督は「後ろに重心を置いて、(クウェートが)どういう出方をするのか探りたかった」と、3−4−3(守備時は5−4−1)のフォーメーションを採用。直前の国内合宿でも試し、守備の強度を高めるという点で手応えを得ていた形の導入に踏み切った。

 こうした思い切りの良さは、さすがにJリーグで何度も修羅場を経験してきた監督と言うべきだろうか。「手堅さを求めた初戦」という言葉からは、過度に理想を追うのではない手倉森監督の中庸の精神が透けて見える。これだけ大きな注目を集める大会の経験値を持っていない選手が大半ということもあって、「立ち上がりはみんな緊張していた」(FW鈴木武蔵=アルビレックス新潟)という選手の状態まで織り込み済みだったのだろう。

大島が見せた瞬間的なひらめきで先制

ゴールを意識した瞬間的なひらめきを見せた大島が先制ゴールを決めた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 序盤はシンプルに裏へのロングボールを蹴り込むシーンも目立ったが、これも事前の指示によるもの。「『つなぎたい』タイプの選手たちが多く出ているが、大会の入りということで今日はまず裏を狙う」(大島僚太=川崎フロンターレ)というコンセプト。ショートパスを奪われてカウンターを食らう展開が一番避けたかっただけに、欲張り過ぎない指揮官の姿勢の表れだった。半ば必然的に試合は拮抗(きっこう)したが、こうなってくるとタレントの質がモノを言う。前半終了間際、試合を動かしたのは一人の選手の戦術眼だった。

「あれは大島の戦術能力。前半のあの時間、(鈴木)武蔵までの距離が遠くなっていて、両ウイングがシャドー(センターFWの後ろ)の位置へと入ってくることができなくなっていた。では、自分が上がってそこを使おうという判断だったのだろう」(手倉森監督)

 43分、MF原川力(愛媛FC)の縦パスから飛び出したのが、大島だった。後ろからの難易度の高いボールをファーストタッチで制御すると、利き足とは逆の左足で丁寧にゴール隅へと流し込む。試合を動かす値千金の一発について本人は「それまでは特にあそこが空いているとは思っていなかった」と言うように、そのスペースを狙う気配はまるでなし。だが、あの瞬間だけ「自分のところに誰も付いてないなと思った」と判断して前へと突撃。原川からの縦パスを引き出し、ゴールを陥れた。技術的にも難度の高い得点だったが、戦術的にも相手が作った一時のスキを見逃さないハイレベルな得点だった。

 大島はパスを回してボールを支配するポゼッションプレーの中心となる選手だが、単にパスがうまいだけではない。ゴールを意識した瞬間的なひらめきがあるからこそ、特別な輝きを放てる。それを強く印象付ける先制シーンとなった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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