マラソン10年で始まったアスリート人生 遅咲き早川英里、初のアジア大会へ
意識改革で高まった競技者としての意識
山本コーチ(左)との出会いが転機となり、早川は競技者として急成長を遂げた 【スポーツナビ】
その結果を見て、TOTOから勧誘された。しかも、拠点の福岡・北九州市で他の選手と練習をしなくとも、チームとしての目標である駅伝に出場すれば、東京を拠点として山本の指導で練習をしていいという条件を出してくれた。
「やっぱりあそこで覚悟が決まったんだと思いますね。名古屋ウィメンズで28分台を出したのもうれしかったけれど、TOTOから誘われたのもうれしかった。自分が走れるのはあと1年か2年かもしれないけれど、自分にとってすごくいい条件で受け入れてもらえるのなら、そこで思い切りやってみたいという気持ちでした」
山本を最初に訪ねた時には特別な目標があったわけではなかった。だが、最後はすっきりと走って終わりたいと取り組んでいるうちに結果を出して実業団に入ることになり、13年の名古屋ウィメンズでは、9年ぶりの自己ベスト更新となる2時間26分17秒を出した。それにより、ますます欲も出て、今年の同大会ではさらに自己記録を更新する2時間25分31秒で日本人2位に。気がつけばアジア大会代表という立場にまでなっていたのだ。
「今年の名古屋ウィメンズでは、先頭争いではなかったけれど、初めて日本人のトップ争いをして、今まで感じられなかったものをすごく感じられました。自分の力を出し切っているつもりでも、ライバルとの争いの中ではまだ出る力があるのだと知ったのも今回だし……。スタート前は緊張したけれど、すんなり後半に入っていってからは、ライバルと争う楽しさや、『このままいけば自己ベストが出る』という楽しさの方が、苦しさより大きかった。そういうのを知られたことはものすごい収穫だと思います」
アジア大会では勝負をして結果を出す
アジア大会ではキッチリ勝負をして結果を残すつもりだ 【スポーツナビ】
「去年の合宿では、それまで1000メートルを10本やっていたトラックでのインターバル練習を20本にしたり、今年はサンモリッツの合宿で、午前中に5000メートルを2本走って、午後に1000メートルを20本というのにもチャレンジしました。精神的にものすごく苦しいことでも一度超えることができると自信になりますし、そういう自信をドンドン積み上げてきました。その面では、今年はマラソンだけでなく、1万メートルでも32分40秒台の自己新も出しているから、いいタイミングでアジア大会を迎えられると思います」と山本も期待する。
「今までリオデジャネイロ五輪も漠然と考えていたけれど、『リオのためには、アジア大会の選考会はそんなに重要ではない』と考えていたら、多分、今の状況はなかったと思います。でも、アジア大会は来年の世界選手権(中国・北京)につながっているし、その先にはリオもつながっている。だから先を見るのではなく、今の勢いをなくさないように1試合1試合を大切にして全力でやることで、上に上がっていければいいと思っています」
速い選手への憧れもあるが、自身は素質だけで陸上をやってきたわけではなく、走れない時も経験して今がある。その経験を生かした、どんな状況にも対応できる強い選手になりたいと早川は言う。今の最大の目標は、アジア大会でキッチリ勝負して結果を出すことだ。
初マラソンから10年目にしてやっとアスリートになれた早川は今、本当の競技歴を積み上げるためのスタートを切ったばかりだ。