ジョコビッチを倒した錦織の勝因=全米オープンテニス
見事としか言いようのない集中力
世界No.1を撃破! 錦織の勝因に迫る 【Getty Images】
セットカウント2−1で迎えた第4セットの第1ゲーム、錦織はジョコビッチのサービスの乱れを狙い、強烈なリターンを放って0−30に持ち込んだ。勝負所をしっかり抑えながら、巧みな力の出し入れ……。15−30からジョコビッチが献上した重いダブルフォルトは、強い風のせいではない。そこまで蓄積してきたショットの軽重、ラリーに込められた攻撃性の濃淡の果てであり、15−40からジョコビッチのフォアハンドが力足らずにネットにかかった。このサービスブレークは、初めての6試合目、4時間超の2試合を戦ったボロボロの肉体には爽やかなシャワーだ。
続く第2ゲーム、0−40から5ポイント連取してサービスキープしたところで布石は整った。無駄な打ち合いでの消耗を避け、自分のサービスゲームに集中――第5、第7ゲームの相手のサーブに抵抗せず、4−3からのサービスゲームは3本のノータッチエースによるラブゲーム・キープで5−3。見事としか言いようのない集中力と完成された試合運びである。第9ゲームの2本目のマッチポイントで、ナンバーワンの必死のフォアハンドがベースラインを大きく跨ぎ、熱いコートにピリオドが打たれた。
世界No.1を狂わせたリターンへの警戒
トスでは錦織が定石通りにレシーブを選択。第1セットの第2ゲーム、長いラリーを制し、2度のデュースからサービスキープした。続く第3ゲームを先にブレークし、第4ゲームはジョコビッチがラブゲームでブレークバックと、ここは軽いジャブの応酬だったが、こうした出入りの多さは、リズムを呼び起こし、錦織には明るい兆しだ。3−3で迎えた第7ゲーム、ジョコビッチのファーストサーブが入らず、錦織はセカンドサーブを狙って3本のリターンエースを奪い、そのまま第1セットを逃げ切った。
この日のジョコビッチは、一貫してファーストサーブに精彩を欠いた。疲れも暑さも湿度も影響しただろうが、錦織のリターンへの警戒もあった。ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、スタン・ワウリンカ(スイス)のビッグサーブをかわしたという心理的な重圧であり、そこを感知した錦織はセカンドサーブに狙いを絞ることができた。第1セット、ジョコビッチのファーストサーブの確率は54%、セカンドサーブからのポイント獲得率は僅かに25%。こうした内容でのセット獲得は、スロースターターの錦織にさらに自信を与えただろう。
だが、相手は今年のウィンブルドンで7度目のメジャー・トロフィーを掲げたチャンピオンだ。1ポイントの揺れで、どう流れが変わるか分からない。