アギーレ初陣にみる3つのポジティブ要素 自分たちのサッカーと決別した日本代表

宇都宮徹壱

「チームに戻ってしっかり修正したい」

途中出場ながら代表デビューとなった武藤は、後半43分にポストを叩く惜しいシュートをみせた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「日本のプレーで一番驚いたのは、4バックが非常に安定していたことだ」――ウルグアイのセルソ・オテロ・キンタス監督代行は、試合後の会見でこのように述べている。多少の社交辞令はあったかもしれないが、手堅い守備の伝統を持つウルグアイの指導者からこのように言われたのは、決して悪い気はしない。確かに、実質3日間のトレーニングだけで挑んだ急造ディフェンスラインにしては、そこそこ機能していたと思うし、何より崩されての失点がひとつもなかったことは評価されてもよいだろう。

 それだけに、日本の失点がいずれも自分たちのミスによって生じたものとなったのは、返す返すも残念である。最初の失点は、前半34分。何気ない酒井宏からのバックパスに、坂井達がトラップミス。相手DFから離れたボールを、ウルグアイの選手たちは見逃さなかった。とっさにエディンソン・カバーニが間合いを詰めて奪い、マルティン・カセレス、ディエゴ・ロランとパスが回って、最後はカバーニが巧みにゴールに流し込む。次の失点は後半25分。マキシミリアノ・ペレイラの(日本から見て)左からのクロスを、酒井宏がヘッドで中央にクリアしてしまう。ニコラス・ロデイロのシュートは、いったんは川島が止めて、坂井達が遠くに蹴り出そうとするも、最後はアベル・エルナンデスが詰めてネットを揺らした。

 もちろん、日本にもチャンスがなかったわけではない。前半17分、岡崎が左サイドでホセ・マリア・ヒメネスをかわしてクロスを供給し、これを皆川がフリーでヘディングシュートを放つも、ボールはバーを越えてしまう。後半43分には、途中出場ながら代表デビューとなった武藤嘉紀が思い切ったミドルシュートを放つも、弾道はポスト左を直撃。どちらも非常に口惜しいシーンではあるが、逆にもし決まっていたら、どちらも代表デビューだっただけに、すさまじいまでのスターシステムが発動していたことは容易に想像できる。

 ところで同じ代表デビューでも、結果として2つの失点に絡んでしまったCBの坂井達は、何ともほろ苦い初陣となってしまった。ミックスゾーンで話を聞くと「チーム(サガン鳥栖)に戻ったら、しっかり練習しないと」という言葉を何度も繰り返していたのが印象的だった。

「(プレーの出来は)ぜんぜん良くないんですけれど、やれる部分とやれなかった部分ははっきりした。(やれなかった部分は)チームに戻ってしっかり修正したい。結果は良くないけれど、レベルの高い試合だったし、次につながるとは思う。次また呼ばれるか分からないけれど、今日できなかった部分を克服できれば、またチャンスは来ると思うし、そう信じてやるしかないですね」

ウルグアイ戦でのポジティブな要素は3点

この試合でキャプテンマークを巻いた本田は、豊富な運動量で守備にも貢献していた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「昨年、ウルグアイは日本に4−2で勝っている。それ(=当時の日本代表)は3年間、一緒にやってきたチームだった。今回は、3回しか練習していないチームだった。ただし、どんな状況であっても、ウルグアイはウルグアイだ」(アギーレ)

 冷静に考えれば、この日の日本がウルグアイに勝利する要素が極めて乏しいことは、直近のワールドカップ(W杯)をテレビで見ていた人なら誰でも分かっていたはずだ。その意味では、これだけ短い準備期間で、しかもA代表デビューが4人もいた中で(後半44分には森岡亮太が出場)、失点を2点に抑えたことについてはそれなりに評価してもよいように思う。もちろん失点の原因となったミスは論外だが、スコア以外でもいくつかポジティブなトピックスのあるゲームであったと個人的には考える。

 私がこの試合で感じたポジティブな要素は3点。すなわち(1)戦う姿勢が明確であったこと、(2)選手の応用力を試せたこと、(3)「自分たちのサッカー」との決別、である。以下、それぞれについて言及したい。

(1)については、先のW杯で日本が最も足りていないと感じていた部分であり、アギーレ新体制になって強く望みたい要素であった。この点については、ミスによる失点シーンがあっても皆が下を向くことなく、代表のキャリアに関係なく最後までしっかり戦ったことを評価したい。

(2)については、後半途中からシステムを4−4−2に変えた時が最も顕著であった。武藤によれば、4−4−2へのシステム変更は「途中からいきなりでしたね。練習でもやっていなかった」そうである。あるいはアギーレは、日本の選手の応用力を試すために、あえて練習で試していないシステム変更を命じたのかもしれない。

 問題は(3)だ。この試合での日本は、アルベルト・ザッケローニ時代の「自分たちのサッカー」の構成要素である、ポゼッションや緻密なパスワークや攻撃的サッカーを(あえて?)排した上で、相手の攻撃に応じて守備の陣形を変化させ、そして最終ラインからのロングフィードを多用していた。いずれもザッケローニ政権下では、あまり見られない戦い方である。私にはアギーレが初陣で見せたサッカーが、いわゆる「自分たちのサッカー」との決別であるように感じられてならなかった。

 とりあえず日本は、相手がどんなに強くても「自分たちのサッカー」を貫くという、いささか身の程知らずであった態度を卒業することにはなりそうだ。しかし、一方で気になるのが、ザッケローニ時代との整合性と継続性である。たまたま相手が格上のウルグアイだったから、このような戦い方になったのか。それとも日本は今後も、守備を固めて最終ラインからロングボールを多用したサッカーを目指すのか。アギーレ自身は「引き出しの多い」監督ゆえ、どちらの可能性もあり得ると思う。9日のベネズエラ戦はその点を踏まえながら、主に攻撃面にフォーカスすることにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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