アギーレ初陣にみる3つのポジティブ要素 自分たちのサッカーと決別した日本代表

宇都宮徹壱

ベールに包まれていたアギーレジャパン

わずか4日のみの練習で初戦に臨むことになったアギーレ監督。新生日本代表はウルグアイに敗れ黒星スタートとなった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 初陣の当日。前日の雨は完全にあがり、見上げると札幌の空はすっかり秋めいた色になっていた。ハビエル・アギーレ率いる新生日本代表の初戦は、札幌ドームで行われる。思えば、日本代表新監督のデビュー戦は、ここ最近ずっと東京の国立競技場、もしくは埼玉スタジアムで行われていた(編注:それ以外でのデビュー戦はフィリップ・トルシエ監督の1998年10月に大阪・長居で行われた試合までさかのぼる)。ここ札幌で、新たな日本代表が披露される。二重の意味での新鮮さを覚えずにはいられない。

 この日、日本が迎えるのはウルグアイ。ディエゴ・フォルランやディエゴ・ルガーノといったベテランが去り、ルイス・スアレスは諸事情で招集されず、監督のオスカル・タバレスも背骨の手術のため来日せず。それでも、相手がFIFA(国際サッカー連盟)ランキング6位の南米チャンピオンであることに変わりはない(日本は44位)。

 ブラジルはクイアバにてコロンビアに大敗して、実に66日ぶりにわれわれの目前に姿を現す日本代表。新たな指揮官を迎えて、果たしてどのような姿を見せるのであろうか。合宿自体は4日間にわたって行われたが、前々日と前日は冒頭15分のみの公開だったので、具体的な戦術練習は確認できなかった。それでも選手たちのコメントから、おおよそのアウトラインは推察することができる。

 センターFWでの起用が有力視されていた大迫勇也は「トップ下が2枚というイメージで僕はやっています」と証言。前線に3人が並ぶことになるのは間違いない。また、所属するヘルタ・ベルリンでは主にアンカーの役割を担っている細貝萌は「アンカーをやるかもしれないし、前の2つのポジション(インサイドハーフ)をやる可能性もある」と語っており、中盤はアンカーとインサイドハーフ2枚という構成になるようだ。となると、最終ラインは必然的に4枚。ただし、それほど明確な約束事はまだないようだ。吉田麻也は言う。

「戦術面で(前の代表と)一番違うのは、アンカーを置くか置かないかというところ。今までは、サイドバックが絞って守備をしていたところがあったけれど、サイドバックも絞るし、アンカーを使いながら相手のカウンターの芽を摘まないといけない。ラインの設定などは、明日やりながらですね」

 なお、チームの約束事については「コンパクトに保つことと、(攻守の)切り替えを速くすること」(田中順也)くらい。あとは、ほとんどぶっつけ本番で臨むことになりそうだ。とはいえ、初陣にあまり多くを求めるべきではないのかもしれない。今回のウルグアイ戦は、相手がかなりの格上ということもあるので、特に守備面に注目することにしたい。

アンカーの判断でディフェンスの枚数が決まる?

流動的なポジションをとるアンカーを任された森重は、適応能力の高さを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 キックオフ1時間前、配布されたメンバー表を見て目をむいた。ずいぶんと予想外のメンバーが並んでいたからだ。GKは川島永嗣。DFは長友佑都、森重真人、吉田、酒井宏樹、坂井達弥、MFは細貝、田中、そしてFWは岡崎慎司、本田圭佑、皆川佑介。

 まず驚いたのは、坂井達と皆川の初招集組をいきなりスタメンで起用したことである。とりわけ皆川は、今季プロデビューを果たしたばかりで、まだC契約(編注:Jリーグの選手契約条件の一つで、チーム加入後に所定の出場時間をクリアしていない選手が該当。A契約が最も上位)だ。これはかなり思い切った起用と言ってもいいだろう。加えて、DF登録が5人もいるのはどうしたことか。これは大方の予想を覆しての5バック、もしくは3バックということなのだろうか。あまりにも意外なリストに、この試合のキャプテンに本田が選ばれたことを見落としてしまったくらいだ。

 結局のところ、この日の布陣は4−3−3であった。DFは右から、酒井宏、吉田、坂井達、長友で、森重はアンカーでの起用。インサイドに細貝と田中が入り、前線は皆川を頂点として、右に本田、左に岡崎を配置した。ポイントはやはり、アンカーの森重だろう(長谷部誠が前日にけがで離脱したため、てっきり本職の細貝が使われると思ったのだが)。もっとも指揮官によれば、森重はアンカーというよりも「3バックの真ん中」という認識らしい(試合後の会見で「森重は3バックの真ん中で非常によかったと思う」と発言している)。では、プレーした当人はどう考えていたのだろうか。

「相手が2トップの場合は、自分が入って後ろが3枚。相手がワントップの場合は、僕が下がる必要はない。そこは試合の状況を見ながら、自分が入る時と入らない時を使い分けています。守備の時は2センター(バック)の前で、自分がしっかり(相手選手に)つく。その時は、自分がCBと同じラインに入ることはほとんどなくて、自分が前でスペースを消しながら、CBを助ける動きはできていたと思います」

 つまり森重自身の判断で、この日の日本の最終ラインは3枚(あるいは5枚)になったり4枚になったりしていたわけである。ちなみにアギーレからは、特に細かい指示はなかったそうだ。「昨日(の練習で)初めてやったけれど、役割というものはしっかり把握していたし、整理して(試合に)入れたので」とは当人の弁。森重がこのポジションを任されたのは、そうした適応能力を買われてのことだったのかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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