継続的な海外経験で若手に出始めた成果=日本陸連・山崎一彦強化育成部長に聞く

構成:スポーツナビ

“東京五輪世代”の活躍が目立つ陸上界。6年後に向けた選手強化の青写真とは? 【Getty Images】

 2020年東京五輪の開催が決定してから1年がたった。この間、さまざまな五輪競技で“東京五輪世代”の若手選手が国内外で活躍し、注目を集めてきた。

 その中の1つに、スポーツの花形である陸上競技がある。実際、7月の世界ジュニア選手権(米国・ユージーン)では、桐生祥秀(東洋大)のメダル2つをはじめ、日本は金メダル1を含めたメダル6個を獲得。入賞も15を数え、過去最高の成績を収めた。また、9月のアジア大会(韓国・仁川)にも、シニアに混じって高校生や大学生が代表に名を連ねており、活躍が期待されている。

 日本陸上競技連盟が掲げる東京五輪の目標は、「金メダル1つを含むメダル5つ、入賞7」。すでに結果を残しつつある若きアスリートたちが、6年後に栄冠をつかむために必要なこととは? 400メートルハードルで五輪に3度出場し、現在は日本陸連強化委員会副委員長で強化育成部長も務める山崎一彦氏 にその青写真を聞いた。

U−23の“ゴールデンエイジ”が順調に成長

――U−23(23歳以下)を「リオデジャネイロ五輪育成競技者」、U−19(19歳以下)を「五輪育成競技者」としています。それぞれの意図を教えてください。

 U−23の人たちは東京五輪で円熟期を迎え、(日本代表の)リーダー格になります。今、この世代の選手を海外にどんどん送っていて、ある程度、成果が出ています。彼らがリオ五輪でもいい成績を出す、入賞するなど、この世代を引っ張っていくことになるでしょう。

 また、U−19の人たちは、今度のリオも出場できればいいのですが、出られる人もいれば、出られない選手もたくさんいると思います。強化はU−23と19の2段構えで動いているというのが現状です。

――U−23世代は、10年の世界ジュニア選手権で活躍したゴールデンエイジです。彼らを4年間でここまで育てた経験は、U−19の育成にどう生かされると思いますか?

 弾みはつくと思います。10年の世界ジュニア選手権でメダルを取って、そのまま順調に伸びている選手も多いですね。また、世界ジュニア選手権には出ていませんが、その後に出てきた棒高跳びの山本聖途(トヨタ自動車)も順調に伸びています。

 彼らは、2年前に作ったU−21(21歳以下。現在このカテゴリーはない)のターゲット世代にあたります。ジュニアは大会があるのですが、19〜22歳にかけては日本代表として戦える大会がほとんどありません。 やはりジュニアの国際大会でいくらメダルを取っていても、すぐにシニアの代表になるのはすごく難しい。そのため、その選手たちがどんどんドメスティック(国内志向)になってしまう。そこで、もう少し視野を広げさせようというのが、(U−21を作った)最初の狙いでした。

 高校年代ではおそらく、世界中のどこを見ても日本が一番、陸上競技が盛んです。これは賛否がありますが、精度の高いトレーニングをしているので、伸びていくスピードも速い。ただ、大学では海外に行って世界を見てくる方が、トレーニングより大事なこともあるのですが、そこをやってきませんでした。そこで、「ジュニアから、もうあと2年、面倒を見よう」と、当時U−21を作りました。少ない予算でしたが、大学1、2年生から海外に行ったり、プログラムを組んだりしていたのが今、うまくいっているのではないかと思います。

――大学に入ってからの強化を考えると、海外の試合にチャレンジする機会を作るのがポイントになりますね。

 そうですね。もう1つは、合宿を組んだり、海外のコーチに教わってみたり、自分で生活してみるなどのシミュレーションですね。「はじめてのおつかい」みたいな(笑)。ただ、「行って来い」と言ってもすぐに英語をしゃべるわけではないし、海外が苦手だったりします。まずは海外の合宿で自分たちで食事を作ったり、ちょっとした生活をしてみたり、そういう流れを作っておいて、「じゃあひとりで行って来い」という形です。

地元開催でも「雰囲気が全く変わると思う」

――東京五輪に向けて、今後どういった選手を育てたいですか?

 一番危惧しているのは、例えば東京五輪であれば東京でやるので、極端な話、海外を知らなくてもいいわけですよね。ただ、五輪本番は、地元が地元ではなくなる。雰囲気が全く変わると思うんですよ。

 07年に大阪で世界選手権がありましたが、その時、世界を経験してない選手には戸惑いがありました。地元とはいえ、会場も外国みたいになっていて、動線も違うし何もかも違う。逆に、日本のユニホームを着ているだけで「あっ」と言われるし、窮屈になってくる。それで、どんどん追い詰められていく選手が多かった。選手として一人前でないと戦えないと思うんです。ですから、核となる選手に世界を経験させることが必要です。

――東京五輪で核となりそうな選手を具体的に挙げると?

 今、ちょうど頑張っているU−23の世代です。今年、すごい記録を出したやり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)やディーン元気(ミズノ)、走り高跳びで活躍中の戸邉直人(千葉陸協)、棒高跳びの山本、競歩の西塔拓己(東洋大)、短距離の飯塚翔太(ミズノ)と山縣亮太(慶應大)。あとは、世界選手権などにも出場している400メートルハードルの安部孝駿(デサント)。彼らが核になっていってほしいと思っています。

――東京五輪の目標として「金メダル1つを含むメダル5つ、入賞7」を掲げています。メダルを想定している種目は?

 今現在のものはありますが、そうなるとは限らないので。ただ、過去の五輪や世界選手権での入賞歴と合わせて、日本人がある程度得意にしている種目が数個あるのですが、それらが該当するんじゃないかと。これから多分、それらの種目を強化していくということになっていくと思います。今は男女マラソン、競歩、男子400メートルリレー、それからやり投げでしょうか。その次に、男子400メートルハードル、棒高跳びですね。

――20年に向けて選手の底上げを考えたとき、重点的に強化を図る種目と、そうでない種目とで、力の入れ方に格差が生まれてくると思いますが?

 ボトムアップ型の強化策を取ると、そういう突出した選手が出てこなくなる可能性もあります。ですから、エリート的な強化と、ボトムアップ的な強化と、どちらがいいのかを考えていかないといけないと思います。

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