「享楽型」モンフィスとフェデラーの因縁 全米オープンテニス
突然の誕生日プレゼント
モンフィスの才能はアザレンカに「眩しいほどの才能の持ち主」と言わせるほど 【写真:ロイター/アフロ】
「今日は、私の大好きなガエル・モンフィスの誕生日。皆さん、一緒にハッピー・バースデーを歌ってください」
モンフィス(フランス)自身は、突然のプレゼントにさぞ驚いたことだろう。一夜明けた大会9日目、このプレゼントに応えるかのように、28歳になったばかりのモンフィスは、「錦織世代」23歳グリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)をストレートで倒し、全米オープンでは2010年以来のベスト8進出を決めた。今年は全仏オープンでも3年ぶりに準々決勝まで勝ち進み、昨年は100位台まで落ちたランキングを24位まで戻している。目下、好調だ。
抜群の身体能力
モンフィスは長い四肢に加え抜群の身体能力をほこる 【写真:ロイター/アフロ】
若くして才能を開花させたモンフィスは、2004年にはジュニアグランドスラムこそ逃したが、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドンのジュニアタイトルを獲得した逸材。長い四肢に特徴があり、本人はパリっ子だが、両親はカリブ出身だ。
身体能力に優れ、陸上競技100メートルの13歳以下、14歳以下のフランスチャンピオンだったこともある。そのまま陸上競技を続けていればオリンピック選手になったとも言われるほどだ。100メートル世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)と同じ28歳。その恵まれた身体能力を生かし、この日もコート狭しと走り回って、決まったと思われるドロップショットを拾っては攻勢に転じた。
二つの問題点
モンフィスの高い壁となって君臨したフェデラー 【写真:ロイター/アフロ】
一つは、ツアーデビューが2004年でフェデラー時代と重なっていることだ。
モンフィスは全仏オープンではベスト8に三度、ベスト4にも一度進んでいるが、その内の3回はフェデラーに負けている。グランドスラムの決勝で4度も敗れたアンディ・ロディック(米国)ほどではないが、モンフィスもまた、フェデラーには悔しい思いをさせられてきた一人だ。もし、そこから一つでも先に行けていたら、その後の状況はかなり変わっていたはずだ。
そして、もう一つの問題点。それは試合中に投げやりになってしまう「自滅型のプレーヤー」だということだ。
「滅私型」と「享楽型」
今年最後のグランドスラムはいよいよ佳境に 【写真:ロイター/アフロ】
第1セットを奪い、快調に進んでいたと思われた第2セットの第9ゲーム。リターン・ゲームで0−40とされると、急に怒り出してサービスラインの前まで出てレシーブの態勢に入った。戸惑うディミトロフに向かって「いいから、打ってくれ」と言い放ち、無気力にリターンを思い切りアウトボールにたたき出すシーンがあった。
「グリゴール(ディミトロフ)には悪かったけど、ぼくは腹が立って、終わってたんだ。誰が悪いわけじゃなくて、自分自身に腹が立った。このゲームはやるから、どんどん先に行こうって感じ」
モンフィスは結局、その第2セットもタイブレークで奪っているのだが、腹が立つ理由に関してはこう説明した。
「ぼくにとってテニスはスポーツであって仕事じゃないんだ。飽きたら、やめちゃう。言葉にすると聞こえが悪いけど『知ったことじゃない』だよ。テニスは好きなんだ。楽しくないことが嫌なんだ。楽しくないなら、もっと楽しいことをしたい」
最近でこそラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)に代表されるストイックな「滅私型」の時代になったのだが、ジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)、エルネスツ・ガルビス(ラトビア)、引退したマラト・サフィン(ロシア)などは楽しんでプレーする「享楽型」に入る。日本でも国際的にも、テニスはもともと圧倒的に「享楽型」の選手の世界だった。
その時代を分けたのがフェデラーだ。フェデラーも「享楽型」に入ると思うが、フェデラーの高い技術力を倒すために「滅私型」のテニスが求められ、そうした時代の流れになじまなかった選手もいたのだ。
モンフィスの次の対戦相手はそのフェデラー。今年最後のグランドスラムは、錦織圭の善戦とともにいよいよ佳境に入ってきた。
(文:武田薫)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ