新生アギーレジャパンの意図を解き明かす ポジション別に見る指揮官の好みとは?

川端暁彦

アギーレ・ジャパン最初の23名から見えたものとは? ポジション別に考察していく 【写真は共同】

 週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』。今週は「アギーレ・ジャパン最初の23名から見えたものとは?」と題し、8月28日に行われた新生日本代表発表を踏まえて、ワンポイントで日本代表の現在と未来を読み解いてみる。

 今回は、『J論』編集長の川端暁彦が、サプライズの興奮も冷めてきたこのタイミングで今一度「最初の23名」の狙いを分析する。極めて急進的に見える選考から見えてきたものとは?

“大型化”という狙いは明確だが……

坂井のような左利きのDFは少ない。大柄の割には俊敏性も併せ持つ 【写真は共同】

 サプライズ選出があったこと自体はサプライズではなかった。

 代表監督が「最初の招集」にメッセージを込めるのは珍しい話でもない。しかし、Jリーグでの実績がほとんどない大卒ルーキーのサンフレッチェ広島・皆川佑介(選出時のリーグ戦先発はわずかに1試合)と大卒2年目で今季リーグ戦4試合(こちらも選出時)しか出ていないサガン鳥栖・坂井達弥の招集は、確かにホンモノのサプライズだった。そこで今回は、ポジション別に「最初の23人」について考えてみたい。

【ゴールキーパー】
川島永嗣(スタンダール・リエージュ/ベルギー)
西川周作(浦和レッズ)
林彰洋(鳥栖)

【主な落選】
権田修一(FC東京)、東口順昭(ガンバ大阪)、林卓人(広島)

 川島と西川の選出は順当というか、誰も驚かない選考で、林彰洋の招集も予想していた人も多かっただろう。195センチの長身は日本人としては規格外。リカルド・ロペスGKコーチが直接視察しての招集決定とのことで、日本代表の新首脳陣は大きなGKが好みかもしれないという推察も可能だ。“大型化”は他のポジションでも顕著に読み取れる傾向であり、新指揮官の大きな方向性となるかもしれない。

【センターバック(CB)】
水本裕貴(広島)
森重真人(FC東京)
吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)
坂井達弥(鳥栖) ※初選出

【主な落選】
今野泰幸(G大阪)、塩谷司(広島)、山下達也(セレッソ大阪)、鈴木大輔(柏レイソル)、昌子源(鹿島アントラーズ)

 ザック体制におけるレギュラーだった今野が選外となったのが大きなトピックだ。31歳という年齢がネックになった可能性もあるし、178センチというサイズがアギーレ監督の好みに合わなかったのかもしれない。今野に代わって左CBとして呼ばれたのが、鳥栖の坂井。左利きのDF不在はザック体制時代から一つの問題点でもあったので、招集の狙いは分かりやすい。突出してフィードがうまいわけではないが、183センチと大柄の割には俊敏。そして戦える選手であることが評価されたのだろう。また28歳の水本を選んだのもちょっとばかりサプライズだ。水本は対人能力に特長を持つタイプで、以前よりも向上したとはいえ決して“うまい”選手ではない。CBに関してはビルドアップ能力よりも対人能力を重んじるのかもしれない。

 落選組では塩谷は選出時にチームでレギュラー落ちしており(第22節・徳島ヴォルティス戦で先発復帰)、自然な落選だった。もともとCBは日本の泣き所。坂井抜てきの背景には、この位置の人材難という日本サッカー界自体の問題点も見え隠れする。

枠の少ない両SB

U−21日本代表から落選したのは選出が限定されていたから。松原の実力に疑いの余地はない 【写真:アフロスポーツ】

【左サイドバック(SB)】
長友佑都(インテル/イタリア)
酒井高徳(シュツットガルト/ドイツ)

【主な落選】
太田宏介(FC東京)、藤春廣輝(G大阪)、橋本和(柏)、安田理大(鳥栖)、下平匠(横浜F・マリノス)、大野和成(アルビレックス新潟)、丸橋祐介(C大阪)

 泣き所という意味では、左SBも課題だ。最も左利きのメリットが大きいこの位置でその適材が見つけられていない。ザック体制でのレギュラーは長友だが、右SBや左右サイドのより高い位置でもプレーできるので、彼をこのポジションで使うことにこだわる必要はあまりない。また「4年後」を考えると、28歳という年齢も気掛かりのひとつ。今回はアギーレ監督が選ばずに前任者の選考を踏襲したと言われる海外組で2つのポジションが埋まってしまったゆえに新戦力の抜てきがなかったが、10月のシリーズでは「左利きの左SB」の抜てきがあるのではないか。新潟の大野のようなCBを本職とする大型選手を左に置くといった奇抜なアプローチもあるかもしれない。

【右SB】
酒井宏樹(ハノーファー/ドイツ)
松原健(新潟)※初選出

【主な落選】
駒野友一(ジュビロ磐田)、丹羽竜平(鳥栖)、森脇良太(浦和)、西大伍(鹿島)、米倉恒貴(G大阪)、吉田豊(清水エスパルス)

 長友、酒井高が共に右利きの「左右兼用サイドバック」であり、内田篤人(シャルケ04/ドイツ)が近いうちに復帰してくるであろうことを思うと、意外に枠がないポジションである。同様の左右兼用タイプとしては清水の吉田の名前が挙がるかもしれない。今季前半戦のプレーで言えば鳥栖の丹羽が外せないが、4年後を思うと、1986年生まれの彼ではなく、もっと若い選手を探すだろう。

 今回、松原が抜てきされたのはその先鞭(せんべん)とも言える。一部では「アジア大会のU−21日本代表から落選したにもかかわらず」といった語られ方をしているが、これは誤解だ。同大会はJリーグ開催期間中のため、1クラブ1名に選出が限定されていた。前線の柱である鈴木武蔵を外しがたかったため、泣く泣く松原を外したというのが真相だろう。後ろから組み立てができて、上下動でもできる松原を外す理由はない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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