成功でも失敗でもないドルトムント復帰 輝きを取り戻す為、香川はまた歩き出す
香川復帰がチームにもたらす影響
在籍時はリーグ2連覇を達成。香川にはポジティブな思い出が多く、クラブにもファンにも復帰を歓迎されている 【写真:ロイター/アフロ】
クロップはかつて香川のことを「トップ下の選手として世界で5本の指に入る選手」と最大限の評価をしていた。ムヒタリアンにはムヒタリアンの、ロイスにロイスの強みがあるように、香川には香川の強みがある。順位付けすることが難しい3人の好選手であり、現在トップ下のポジションではマルコ・ロイスが素晴らしいプレーで大黒柱の活躍をしている。しかし、攻撃に移るためのギアを入れることができる香川のプレースタイルこそがドルトムントに必要なものであるのも確かだ。香川が入ることでロイスをよりFWに近い位置でプレーさせることもできるだろう。あるいは『ビルト』紙の情報によると、クロップはムヒタリアンをボランチ、ロイスを左サイドに回し、香川との共有もプランしているという。
ユナイテッドでの挑戦は貴重な経験の数々
実際に、同じように絶頂期にレアル・マドリーに移籍しながら鳴かず飛ばずで復帰してきたヌリ・シャヒンの例もある。水準以上のプレーを見せるまでは調子を取り戻したが、かつての輝きにはまだ程遠い。「香川も同じようになるのではないか」とそのことを心配するファンも存在する。しかしケールは「彼には信じられない程のクオリティーがあるし、僕らを確実に助けてくれるだろう」と語り、ロイスも「カガワはきっと僕らの助けになる」と報道陣の問いに答えていた。焦る必要はない。公式ホームページではバッツケ社長が「彼に必要な時間と落ち着きと信頼の中で、シンジがまた最高レベルに達することができると確信している」とじっくりと時間を与えることを強調していた。
うまくいくかどうか。マンチェスター・ユナイテッドでの挑戦は失敗だったのか。しかし、香川がドルトムントに戻ってきた意味を問うのはまだ早いと思われる。外から見ている人間は、応援している選手が、自分たちが憧れた理想的なキャリアアップを果たしてくれることを夢見たくなる。誰もが憧れるステップアップを見続けて、その喜びを共有したいと思う。だがすべてがイメージ通りに進むわけではないし、イメージ通りに進むことだけが成長につながるわけではない。そして何が成功かは誰かに決められたり、最初から定められているものでもないはずだ。得てきたものは成功でも失敗でもなく、貴重な経験の数々。「苦悩」「不運」といった言葉だけで終わってしまったらもったいないではないか。
家族のような雰囲気で選手を支えてくれるドルトムントというクラブで香川はまた歩き出す。ゼロからの再スタートでも、やり直しでもない。これまでの歩みをしっかりと認識したうえで、プレーの喜びを、そして輝きを取り戻すべく、自分と向き合って進んでいくだろう。その先にファンの大歓声を浴びる彼の姿があることを、今は静かに祈っていたい。