八重樫東との大一番に挑むロマゴンの強さ=39戦無敗の軽量級最強ボクサーとは!?

船橋真二郎

「9月5日は戦争をお見せする」

3階級制覇をかけて八重樫の持つWBC世界フライ級王座に挑むローマン・ゴンサレス 【船橋真二郎】

「この試合は私にとって、『夢』と言える試合。ボクシング人生の中で最も重要な試合です。過去に3階級制覇を果たしているのは、私の国ではアレクシス・アルゲリョだけ。もし私が達成すれば、ニカラグアにとっても大きなニュースになるでしょう」
 8月25日、プロモート契約を結んでいる帝拳ジムで行われた公開練習時の記者会見。八重樫東(大橋)のWBC世界フライ級王座に挑戦するローマン・ゴンサレス(ニカラグア)は、この一戦の意義を問われてこう答えた。「日本の気候に慣れるため」と、本番から2週間以上も前の8月18日に来日していることからも、並々ならない意気込みの強さが伝わってくる。周到に最終調整を進めるゴンサレスは“チョコラティート”(小さなチョコレート)の愛称どおりの愛らしい笑顔を浮かべながら、こう言ったものだ。
「9月5日は試合ではなく、戦争をお見せすることになる」

日本初登場は衝撃の秒殺KO勝利

 まだ27歳だったのかと、あらためて驚かされる。今から7年前の2007年11月、初めて来日したときの衝撃を日本のボクシングファンは決して忘れないだろう。その時点でランキングはすでにWBA世界ミニマム級1位。14戦14勝14KOのパーフェクトレコードを引っさげて、東京・後楽園ホールのリングに登場した20歳の若者は一瞬のうちに観衆の心をつかんだ。

 後楽園ホールをどよめきが包んだのは、ほとんど最初の攻防だった。パンチをかわしざまに叩き込まれるコンビネーションの正確さ、力強さ。じわじわとプレッシャーをかけながら、いつの間にかロープ際に追い込むステップワークの的確さ。そこからのフィニッシュがまた圧巻だった。ガードの真下から鋭く突き上げられた左アッパーが顔を跳ね上げ、その見事さを堪能する間もなく次の左フックが脇腹をえぐる。キャンバスに這いつくばった相手は悶絶し、そのまま10カウントを聞いた。要した時間はわずかに69秒。その相手がWBA世界ミニマム級4位にランクされるエリベルト・ゲホン(フィリピン)だったのだから、衝撃度はなおさら増した。世界上位ランカー同士の好カードという試合前の期待までも、ゴンサレスはあっさりと蹴散らしてしまったのだ。

V8狙う新井田に4回TKOで圧勝

 ゲホンは時のWBA世界ミニマム級王者・新井田豊(横浜光)が2カ月前、6度目の防衛戦で判定勝ちした相手であり、その2年前にも3度目の防衛戦で対戦し、10回負傷判定の末に2‐1で辛勝していた言わば宿敵でもあった。

 強烈なデモンストレーションから10カ月後の08年9月、パシフィコ横浜で新井田の8度目の防衛戦の相手として立ちはだかったゴンサレスは4回TKO勝ちで圧勝。新井田も最後までダウンは拒否し、果敢に打ち合う意地を見せたが、その強打に鼓膜を破られ、右目の周囲は大きく腫れ上がった。だが、ゴンサレスのボクシングは決して暴力的でなく、洗練されたスキルと戦略の内にその本性を潜ませている。若さの勢いではなく、すでにほとんど完成されたボクシングスタイルで世界のベルトを初めて手にした21歳には、末恐ろしさしか感じられなかった。

 23歳で2階級制覇を達成し、WBA世界ライトフライ級王者として、5度の防衛にも成功。現在に至るまで39戦39勝33KOと、誰にもその牙城を崩させていない。アマチュア時代も全勝というのが一般的だが、1敗しているという説もある。いずれにしても、その強さが色褪せるものではないだろう。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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