自分たちの戦い方を確立できなかった日本 国内組がW杯で感じた世界との差<前編>

元川悦子

国内組が思い知らされた世界基準

「1対1の激しさはJリーグや親善試合と全然違った」と振り返る森重(右) 【写真:フォトレイド/アフロ】

 2014年ブラジルワールドカップ(W杯)での日本代表の惨敗から2カ月。アルベルト・ザッケローニ監督が去り、ハビエル・アギーレ新監督率いる新体制がいよいよ本格始動しようとしている。ブラジルで屈辱を味わった選手たちも再出発を誓い、すでに各クラブでの新たな戦いに戻っているが、彼らは大舞台で体感した「世界トップとの実力差」を今もしっかりと脳裏に刻みつけている。

 日本の明暗を分けた6月14日(以下すべて現地時間)の初戦・コートジボワール戦に先発フル出場した森重真人は、ディディエ・ドログバが出てきて一気に流れを引き寄せられ、わずか2分間で逆転された瞬間をピッチ上で経験した貴重な生き証人だ。

「真剣勝負のW杯での球際の強さや1対1の激しさはJリーグや代表の親善試合とは全然違うものだと改めて実感しました。だからこそ、日頃からそういうレベルを常に意識しながらやらないといけない。Jリーグにいる自分の場合は、相手エースを確実に抑えるのはもちろんだし、代表の親善試合では常に勝ち続けないといけない。そうやって世界基準の個の力に慣れていくしかないと思います」としみじみ語っていた。

 19日の第2戦・ギリシャ戦でまさかのスコアレスドローに終わった後、わずかな望みをかけて挑んだ24日の最終戦・コロンビア戦でも、世界の高い壁を感じた選手は少なくない。この場面でW杯初舞台を踏んだ青山敏弘はその筆頭と言える。

「五輪などの年代別世界大会に出ていない僕は国際大会自体が初めてで、コロンビアのレベルの高さに面食らって何もできなかった。W杯直前に戦ったコスタリカも十分強かったけれど、コロンビアの強さは比べものにならないものがあった。準備段階でそういう試合をするチャンスがほとんどなかった自分が、いきなり『やってください』と言われても正直、難しい。経験があればできるとは言い切れない部分があるけれど、あった方が間違いなくいいですからね」と彼は悔しい思いを率直に打ち明けた。

今野「コロンビアは優勝するだろうと思った」

世界大会の出場経験がなかった青山(青)にとって、コロンビアのレベルの高さは衝撃的だった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 森重や青山はご存じの通り、13年7月の東アジアカップ以降にチームに定着した選手で、フランスやブラジル、メキシコなどW杯決勝トーナメント常連国とタフな戦いをする機会が極めて少なかった。それが彼らの足かせになった部分は確かにあった。とはいえ、今大会の日本代表を見ると、国際経験豊富な面々でさえ、コートジボワールやコロンビアに太刀打ちできていなかった。03年ワールドユース選手権(UAE)、04年アテネ五輪、10年南アフリカW杯、そして今回と10数年間にわたって代表キャリアを積み重ねてきた今野泰幸も、コロンビアの個人技術の高さとボール支配力には驚きを隠せなかったようだ。

「ワールドユースの時もコロンビアに完敗した経験があったので嫌な予感はした。1人ひとりの技術がメチャクチャ高いし、球際も強いし、スピードを上げてくる時は一気にギアを入れる。組織力も高いし、本当にスキがない相手でしたからね。

 実際に試合が始まってみると、相手をつかみ切れなくて戸惑った。『パンパンパンパーン』みたいな素早いリズムのパス回しをされて、プレスが全然かけられないし、個人のテクニック、パススピードも仕掛けの速さもず抜けていた。それに驚いてしまったし、目が慣れるのにいっぱいいっぱいだった。僕がアドリアン・ラモスを倒して先制されたのも痛かったけれど、その前の時間帯から相手にペースを握られていた。コロンビアは優勝するだろうと思ったくらいです」

 内田篤人のようにブンデスリーガやUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で数々の修羅場をくぐってきた者はともかく、日本人選手の大半がこうした高度なレベルを体感する場が限られている。その実情を我々は再認識する必要があるだろう。事前にその厳しさを選手たちに理解してもらうためにも、大会直前のマッチメークにはもっと工夫を凝らすべきだったのかもしれない。

 14年の日本代表は、3月のニュージーランド戦(4−2)、大会直前のキプロス戦(1−0)、コスタリカ戦(3−1)、ザンビア戦(4−3)の4試合を消化したが、ニュージーランドとキプロスは世界基準とはかけ離れた相手だった。ブラジルで8強入りしたコスタリカ、12年アフリカネーションズカップ優勝のザンビアはいい相手だったが、コスタリカは調整の色合いが強く、ザンビアにしてもW杯に出ない気楽さはあったはず。日本が本気で上位躍進をもくろむのなら、より格上のW杯出場国と戦う必要があったのではないか。

 実際、10年南アフリカW杯は直前のセルビア(0−3)、韓国(0−2)、イングランド(1−2)、コートジボワール(0−2)との4試合に負け続け、岡田武史監督も選手たちも厳しい現実を実感させられた。戦い方がガラリと変わったのもそのインパクトがあまりにも強かったからだ。3度目のW杯出場だったベテラン・遠藤保仁が大会前に「今の雰囲気はドイツ(W杯)の時に似ている」と警鐘を鳴らした通り、今回の日本代表にそこまでの危機感はなかった。香川真司がマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)、本田圭佑がACミラン(イタリア)、長友佑都がインテル(イタリア)と欧州ビッグクラブでプレーする選手がかつてないほど増えたうえ、13年11月のオランダ(2−2)・ベルギー(3−2)2連戦で好結果を出し続けたことが、こうした空気につながったのは確かだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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