甲子園で勝つべく“特化”した球児たち、足の健大高崎と超遅球・西嶋に見えた妙味

松倉雄太

2回戦の利府戦では4盗塁を決めた健大高崎の3番・脇本。今大会は機動力野球でベスト8入りを果たした 【写真は共同】

 第96回全国高等学校野球選手権大会は、大阪桐蔭(大阪)が三重(三重)を4対3で下し、2年ぶり4回目の全国制覇を果たした。開幕戦でセンバツ覇者・龍谷大平安(京都)が春日部共栄(埼玉)に敗れ、北信越勢の躍進が目立った今大会。波乱となった96回目の夏を振り返ると、全国大会で勝利するためのあるキーワードが見えてきた。

「機動破壊」はまだ発展途上

 大会中、試合に敗れた選手からこんなことを聞いた。「何かに特化したチームが全国で勝てる」。“特化”というキーワードで浮かんでくるのが、足の健大高崎(群馬)と超スローカーブで話題になった東海大四(南北海道)のエース・西嶋亮太だ。

 健大高崎は3年前の初出場以降、【機動破壊】というチーム方針が全国で知れ渡り、今年のチームは群馬大会6試合で35盗塁という驚異的な数字で甲子園にやってきた。本大会でも、2回戦で11盗塁を決めるなど、持ち味の機動力をいかんなく発揮した。

 ただ忘れてはいけないのが、盗塁の数字にとらわれないこと。3番・脇本直人を中心に、機動力を生かした打撃力、さまざまな攻撃力が光ったのは事実である。3回戦までに対戦したあるチームの捕手は、「盗塁されるのを気にしないようにしていたが、実際に盗塁を決められると、相手打者が元気づいてしまう」と話した。

【機動破壊】の一つの要素に、そういった相手守備陣に心理的変化を与えるというのがあるようだ。もう一つは、走者とバッテリーの駆け引き。あるチームはけん制をほとんどしないよう試したが、逆にその裏をかかれてしまったことがあった。けん制をしない時ほど走らない。これは相手守備陣に「なんで走らないの?」という意識を生ませる効果があるように思える。

 健大高崎は準々決勝で優勝した大阪桐蔭に敗れた。この試合で4盗塁を許した大阪桐蔭の捕手・横井佑弥は、途中で相手の足に驚きの様子を見せていたが、「走られてもホームにかえさなければいい」という思考と、自チームのエース・福島孝輔の力を信用したリードで、見事2点に抑えた。健大高崎からしてみれば、【機動破壊】がまだまだ発展途上と突きつけられた結果だろう。とはいえ、この経験を糧に進化をしていけば、そう遠くない時期に日本一を取れるような気がしてならない。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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