この夏、北信越勢が熱い…躍進の理由は? 高校野球界で影薄い地域が進化遂げる

楊順行

史上初5校が初戦突破、4校が16強

打線爆発、圧倒的な攻撃力でベスト4まで勝ち上がった敦賀気比。躍進光る北信越勢を引っ張る存在だ 【写真は共同】

「そら、今のチームの方が強いと思いますよ、全然」

 敦賀気比(福井)の東哲平監督は、そう言った。東出輝裕(現・広島)と同期で1997年夏、98年夏の甲子園に出場し、97年にはベスト8に進出している。その時代より、今のチームの方が全然強い、というのだ。とにかく、打線が強力だ。夏の甲子園、3試合連続2ケタ得点で勝利したのは戦後初で、22日の準々決勝でも7対2。峯健太郎の3ラン、投げては2年生エース・平沼翔太の4安打完投などで、2011年夏から12年夏まで3季連続準優勝の八戸学院光星(青森)に快勝だ。

 それにしても、この夏の甲子園、北信越勢が熱い。同じ準々決勝では、日本文理(新潟)が聖光学院(福島)にやはり快勝。北信越の2校がベスト4に進出したのは、星稜(石川)と敦賀気比の95年以来19年ぶり。それよれ何より、ほかに佐久長聖(長野)、富山商(富山)、星稜と、史上初めて5校が初戦を突破し、佐久長聖を除く4校が3回戦(つまりベスト16)に進むという快進撃だ。

 高校野球界では長く、北信越の影は薄かった。この夏が始まるまでの甲子園通算勝ち星を見ると、新潟が47都道府県中最下位、富山が同数ブービーの45位、優勝経験のある長野にしても28位、福井が29位、石川が39位。新潟の26勝は、平成に入った91年に初出場した大阪桐蔭(大阪)が20年強で稼いだ35勝に、束になってもかなわない。

積雪、冬の気候で練習が制限される悩み

 なぜ北信越勢が弱いのか。要因のひとつはむろん、気候条件にある。積雪のある冬、北信越のチームは屋外での練習が制限されるのだ。

 例えば新潟なら、雪はもちろん、10月から12月の気候も理由になる。その期間、新潟と東京の平均気温差は3度ほどでしかないが、冷え込みがきつくなる11月以降は、いったん雨が降ればグラウンドはなかなか乾かず、3日は使えない。新チームが基礎を固めるべき10〜12月に、みっちりと反復練習ができないわけだ。他県にしても、事情は大同小異だろう。日本文理を率いる大井道夫監督は、こんなふうに回想する。大井監督といえば59年の夏、準優勝した宇都宮工(栃木)のエースだった。

「縁があって86年に監督になったけど、それまでは栃木で、時々、高校野球の解説をしていたんです。関東の野球に慣れた目から見ると、当時の新潟は、やはりかなりレベルが下だったよね。だって、北信越大会の抽選で新潟が相手に決まると、みんなほくそ笑んだというんだから」

 86年当時の新潟といえば、前年から始まった夏の甲子園初戦敗退が92年まで続く“暗黒期”である。だから、かくてはならじ、と強化に取り組んだ。90年代の後半からは、竹田利秋氏、尾藤公氏、中村順司氏ら、高校野球で実績のある指導者を招き、強化を図った。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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