王者パナソニックは「先へ先へ進む」 世界的名将・ディーンズ氏が語る
進化のために「変化をつけているところ」
日本に住んで、日本のチームを率いるのは「新しいチャレンジ」と語るディーンズ監督(中央) 【斉藤健仁】
時間がかかりましたが、昨シーズン、2冠を達成しました。決して楽だったわけではなく、さまざまな難しい状況の中でできました。そんなチームを率いることは、ハードルが一つ上がりましたね。日本に住んで日本のチームを率いるのは新しいチャレンジです。非常に刺激的です。
――5月からパナソニックの監督に就任し、どういったことをやってきたのでしょう?
実際に適応、調整のところはやっています。一つのところにとどまると相手に簡単に分析されてしまう。ですから、同じことをやり続けることはできない。私たちスタッフの仕事は、昨シーズン以上のチームになるために準備をすること。常に先へ先へと進んで行かないことには、いつか必ず追いかけてくる人たちに抜かれてしまうので、そういった意味では変化をつけているところです。
「日本のラグビーは世界の最前線に近づいている」
スーパーラグビーを経験して成長を遂げた田中史朗 【斉藤健仁】
おっしゃる通りですね。オーストラリア代表を率いてきたので、オーストラリアのチームが進歩を遂げつつあり、スーパーラグビーで優勝したことは大きなことです。決勝でクルセイダーズとワラタスというトップチームが真正面からぶつかり合いましたが、ワラタスは(試合後半で負けていて)アタックをしなければいけない状況においても、アタックをし続けたからこそ優勝できたと思います。またコンタクトエリアのプレーが非常に良かったので、われわれもできればいいなと思っています。
――日本代表のようにアタック・シェイプを導入するチームが増えていますが、対策しやすいのでは?
どのチームも強いチームの真似をします。世界中どこでも起こり得る普遍的なことです。やはりエディー(・ジョーンズ)のラグビーというものは、周りをひきつける部分もあり、選手たちも日本代表でプレーするためにはそのラグビーに近いプレーをやりたいと思うでしょう。そういった意味ではエディーのラグビーが日本の潮流になっているという部分はあります。ただ、すべてが同じではなく、ある程度の違いはあります。現在のテクノロジーを使えば、だいたいどんなことをやってくるか分かりますが、分かった上で止められるかどうかは別の問題です。
実際、日本の選手がスーパーラグビーや、インターナショナルのレベルで戦うなど、いろいろな経験をしてきているので、日本のラグビーはどんどん世界の最前線に近づいています。神戸製鋼はチーフスと提携をし、ギャリー(・ゴールド)のような世界的なコーチの経験を取り込み始めている。こういったことは日本のラグビーにとって良い影響を与えるはずです。選手たちが世界の最先端の考えに触れることができますし、そうすることで選手のレベルも上がっていく。日本代表チームも実際に良い結果を残し始めているし、今後は日本代表の選手層に厚みが増すのではないでしょうか。
日本ラグビーに衝撃、変化を与える「哲学者」
世界的名将がどのようなチームを作るのか、注目が集まる 【斉藤健仁】
具体的な名前を挙げることはできませんが、昨シーズン、新人のPR(プロップ)稲垣啓太やFB(フルバック)笹倉康誉が素晴らしかった。彼らにとっては昨シーズン以上のパフォーマンスができるかどうかということは非常に良いチャレンジですし、同じような選手たちが今シーズンも出てきてほしい。
――今シーズンの目標は?
私たちのターゲットは他チームと一緒です。セカンドステージで上位グループに入ることが目標です。退屈な目標だと思われるかもしれませんが、やはり一番考えなければいけないのが、次の試合に備えること。それが本質です。昨シーズン王者だったことは、アドバンテージではなく、むしろディスアドバンテージだと思っています。
――ファンはパナソニックの進化に期待しても良いのでしょうか?
大きな変革はないと思いますが、何かしらの進化は見られるでしょう。
――将来的には日本代表監督のオファーがあれば考えますか? 2016年からは日本がスーパーラグビーに参戦する可能性も浮上しています。
長くラグビーに携わってきて正直、驚くことはなくなっています。どんなことでも起こり得ます。だから、可能性については現時点では否定はしませんが、そういった話に身を置いているかと言えば、答えは「ノー」です。今は2014年度のパナソニックのことしか考えていません。
昨シーズン、日本選手権の2冠に輝いた王者を「哲学者」のように知見と経験にあふれた世界的名将がフルタイムで指揮を執る。パナソニックだけでなく日本ラグビー界にどんな衝撃、変化を与えるのか――、今シーズンも「野武士軍団」から目が離せない。