なぜ多い?大阪、兵庫出身の甲子園球児、中学野球から見える “気質”と“伝統”

瀬川ふみ子

甲子園のためなら地方進学に抵抗なし

3年連続で大阪を制した大阪桐蔭。各地から有力選手を集める同校を下さなければ、大阪の他校は甲子園に出場できない 【写真は共同】

 そんな選手たちが進路を決めるにあたり、第1の条件に挙げるのが、やはり「甲子園」。甲子園を考えると、「大阪を出た方が甲子園に行きやすい」というのは大阪では頻繁に聞かれる。

 大阪のある中学硬式指導者はこう話す。

「数年前まではPL学園が、今の大阪は大阪桐蔭、履正社が強く、そこには関西だけではなく九州、東海地区からもスーパーな選手が入ってきます。それを見ると、『桐蔭を倒さなきゃいけない、となると甲子園に出られんのやないの……』という雰囲気がどうしても出てきます。なので、『桐蔭や履正社から誘われないなら、他の地区で勝負した方がええやろ!』と外へ出ていきたがる子が多いです」

 また、兵庫の強豪チームの監督はこう話す。

「将来を考えると、勉強ができる子には進学校や、大学の付属校に進ませたいですが、地元にはそういう高校があまりないという事情もあります。(東京)六大学野球などの目標があれば、大学付属校に入って野球と勉強、両方を頑張って大学につなげるという道もあり、全国に広げて進路を選択するようにしています」

 ほかにも、地方高校の設備の充実や、関西だと、北海道、四国・九州などへ2、3時間ほどで行けるなど、地方に容易に行ける手軽さを挙げる指導者もいる。

 実際に来年から高校に飛び込む中学3年生たちに進路について訪ねると、強豪になればなるほど、チーム内に地方を志望する選手が多い。理由は、「甲子園に行きたいから」「寮に入るなら地方でも一緒」「どうせなら甲子園に出やすい県に行きたい」といった声も……。保護者にも話を聞くと、「不安がないかと言えばありますが、子供が挑戦してみたいというならそれを応援するのが親だと思います」といった答えが返ってきた。

 このように親も子も、“外”に出ることに抵抗感は少なく、むしろ積極的になっている。こうして大阪や兵庫の選手たちは、近隣の近畿や四国・中国地方、さらに、東北や北海道、九州へと巣立っていくのだ。 

活躍する関西“気質”

 ならば、なぜ彼らは進学先の高校で活躍できるのか? 多くの高校指導者はやはり「大阪の子の気質でしょう」と言う。「負けん気が強く、(厳しいことを言っても)食らいついてきます」という声や、「アピール上手。どんどん指導者に売り込み、周りに言うだけじゃなく自分もしっかり練習します」と話す。実際、大阪、兵庫で取材する際、1人の選手に話を聞こうとすると、「オレもこうやで!」「オレにも聞いてや!」とアピールする選手が続々現れる。

 選手を送り出す中学時代の指導者に話を聞くと、“気質”に加えて、「地方に行った先輩の活躍で自信のようなものが生まれている」という声や、「高校に行ったら困らんよう、中学の間に、普段の生活、友達関係、指導者との接し方なども教えていますね」といった話も。

 気質もそう、伝統もそう、それに加えてさまざまな準備や努力もしているからこそ、活躍できるのだ。

甲子園へ“凱旋”する球児たち

 かつて、兵庫から地方の高校に進んで甲子園に出場したある選手がこんな話をしていた。

「僕は甲子園球場のある兵庫で生まれ育って、甲子園でいろんな試合を見てきました。ですが、ある時から『ここは自分がやるところや』と思うようになり、練習に没頭しました。地方の高校を選んだことで、いろいろ言われて悔しかったですが、意地でも甲子園に行って地元に凱旋するぞと頑張って練習しました。僕みたいな選手は多いんじゃないでしょうか」

“地方に行ったから行ける”とは限らないのが甲子園。その夢をつかむには、やはり、勝負を懸け、それそうとうな努力と意地があってのこと。今夏も、努力の末に夢をつかんだ選手たちが、“地元”甲子園に凱旋する。

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