柿谷、15分間のデビュー戦は見せ場なし 意欲的な姿勢に好印象も連携に課題を残す

中野吉之伴

特徴をつかむにはまだまだ時間がかかる

PKかと思われるような場面は作ったが、それ以外ではほとんどボールに触れず。味方選手の特徴をつかむにはまだまだ時間がかかりそうだ 【写真は共同】

 試合後柿谷は、15分間のデビュー戦を「追いつかれてしまったので。リードのまま終われたらよかったです。 早くチームに溶け込めるように。試合に出たからどうこうというより、早くチームのために貢献できるように頑張ります」と振り返った。コミュニケーションは積極的に取ろうとしている。英語の勉強への意欲を示しているし、「サッカーのところでは通訳は要らないと思う」とも話している。試合前のアップでは楽しそうに他の控え選手と一緒にボール回しをしていた。チームもそんな姿勢を好意的に受け止めている。

 プレー面ではどうだろうか。この日はPKかと思われるような場面は作ったが、それ以外ではほとんどボールに触れることができなかった。しかし時間帯や試合展開の影響で、ロングボールが増えてしまったという事情もある。合流してまだ2週間と少し。味方選手の特徴をつかむにはまだまだ時間がかかる。

 ソウザ監督は理想の組み合わせを探している。昨シーズン主力だったコートジボワール代表MFセレイ・ディエ、FWジョバンニ・シオは本調子ではないため、この日メンバー入りもしなかった。ディエは「バーゼルには絶対的なレギュラー選手はいない。僕がプレーすることもあれば、ベンチに座ることがある。大事なのはチームが勝つかどうかなんだ。僕らはチームなんだからね。ソウザ監督はいつも勝ちたいと思っているし、すべての選手にチャンスを与えている。練習から全力でしっかりとしたプレーを見せるものだけがチャンスを手にできる」と地元紙『バスラーツァイトゥング』のインタビューで答えていた。この日柿谷がデビューするチャンスを得たのはプレゼントでもなんでもなく、練習での取り組みが評価されたからに他ならない。

タイミングよくボールを呼び込めるか

 入団会見時にソウザ監督は「柿谷はいいタイミングでペナルティーエリアに飛び込んでゴールを取れる選手なので、そうした期待はしている。彼は攻撃的な3つのポジションでプレーできるし、ゴールにつながるプレーをしてくれたらうれしい」と評価していた。ゴールにつながるプレーをするためにはパスを受けられなければならない。この日の終盤は、勝ち越し点を取るために縦に早い展開ばかりになってしまったが、本来は守備ラインがビルドアップをしている間に、FWがポジションチェンジをしながら裏のスペースを攻略していくことが求められる。相手の嫌なスペースと味方が出したいスペースをかぎ分け、タイミングよくボールを呼び込めるかが鍵となる。

 またバーゼルでは強靭(きょうじん)なフィジカルを持つシュトレーラーのポストプレーがひとつのポイント。大事になるのはパスが入った後のポジショニングなのだが、この日のようにサポートに入る選手がいないと、相手守備陣に囲まれてボールロストしてしまう頻度が増えてしまう。パスが入るタイミングを予測し、ボールを受けられるポジションに動いて落としのパスを受けたり、あるいはこの日見せたように、こぼれてくるところを予測して動き出せれば相手にとっては怖い。

 デビューを果たしたとはいえ、本人的にはこれでスタートラインに立ったとは思っていないだろう。入団会見で「チャンピオンズリーグ(CL)は子どもの頃から憧れていた舞台ではありますけど、それがあるから来たというのは少し違う。これだけ常に優勝できるチームというのはどういうチームなのかというのですごい興味がありました。僕がいたセレッソ大阪ではタイトルを取ったことが、優勝したことがないので、そういう経験がしたい。だからスイスリーグで全力で戦いたいのが先で、その先に世界最高峰のCLがある」と強調していた柿谷。

 この日も 「そういうチームの一員なんだという自覚をしっかり持って、練習から取り組んでいきたいと思います」と気を引き締めていた。ポジション争いは激しい。やらなければならないことはたくさんある。しかしだからこそ意味があり、だからこそやりがいがある。彼の目が見据えるものはまだまだ先にあるのだから。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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