キャプテン2年目、木村沙織の新たな挑戦 今までの経験を全日本でも生かすために

田中夕子

絶好の機会となるワールドGP

木村にとってキャプテン1年目は苦しみのシーズンに。周囲に気を配りすぎるあまり、自分のプレーに影響が出てしまうこともあった 【坂本清】

 キャプテンマークをつけて臨む、2度目のシーズン。昨年よりも「やるべきことが明確になった」と、木村沙織は言う。

「チームが勝つために何をすべきか。いろんなポジション、役割を経験して、1人ひとりがどうしなきゃいけないか。みんなが考えているし、それを実践しようとしている感じ、手応えをちょっとずつ感じられるようになりました」

 歴史も長く、最も多くの出場国が集う世界選手権や、上位2チームにオリンピック出場権が与えられるワールドカップと比べれば、毎年開催されるワールドグランプリ(GP)の比重は高いものとは言い難い。

 だが裏を返せば、これは絶好の機会でもある。

 上位5か国と開催国の計6チームが対戦する決勝ラウンドは、8月20〜24日までの5日間、東京・有明コロシアムで開催されるため、ブラジル、アメリカ、イタリア、ロシア、中国など世界の強豪国が予選ラウンドでしのぎを削る中、開催国である日本に出場権が与えられることは確定している。つまり、何が何でも予選ラウンドで5位以内に入らなければならないという状況ではない。どんな時でも結果を求める、という一方で、新たな戦術、布陣で戦い、どれだけ通用するのか、現時点での力を見極めることができる場でもある。実際に、放送局では「世界一を決める大会」と煽っていたが、実際には4年に一度の国際大会の中では最も規模が小さく、海外の主力選手は休養に充てるオリンピック翌年に行われた昨年のワールドグランドチャンピオンズカップでは、本来ミドルブロッカーが入るポジションに、攻撃力のある迫田さおりを配置し、攻撃本数、降下率を上げるための「MB1」という新戦術を試みたのは記憶に新しい。

 アメリカ、ブラジルに敗れはしたが、新たな戦術がどれだけ有効か。実戦での経験を通して得られたデータ、手応えをベースとして、世界選手権を見据えた今季の戦い方、さらには来年からのオリンピックロードへつながる戦い方を熟考し、実践する貴重な機会が今夏のワールドGPでもある。

周囲に気を配りすぎるあまり……

 オリンピック翌年で、さまざまなメンバーを試しながら大会に臨んだ昨年とは違い、今季はチームを固める時期でもあると、木村は言う。

「毎年思うけど、今年はホントに、勝負の年だと強く思います」

 キャプテンとして1年目のシーズンであった昨年、ワールドGPや世界選手権アジア予選では、戦う集団になりきれないチームの弱さ、脆さを感じながらも、どう修正すればいいのか分からない。周囲に気を配りすぎるあまり、自分のプレーも思い通りにできず、いら立ちを募らせながらコートに立つ姿があった。

 ロンドンオリンピックを終え、異なる環境でチャレンジすることで自身のレベルアップを図るために、世界最高峰ともいわれるトルコリーグに移籍したが、日本では当たり前のように得ていたレギュラーポジションを得るのも容易ではない。ピンポイントに上がってくるトスに合わせて打つ技術、相手の裏をかくような巧みな技を武器とする木村の攻撃よりも、高いトスを最高打点で打ち、高さやパワー、持ち味をシンプルながらも存分に発揮する選手のほうが高く評価され、自身でも「筋力、パワー不足を痛感した」と言うように、思うように攻撃力を発揮することができず、リザーブに回ることも少なくなかった。

 日本での活躍を見ていた者たちからすれば、いささか物足りないように思われる状況ではあったが、だからこそ見えたものも数えきれないと言う。

「1点を獲る時の盛り上げ方、盛り上がり方。大事なポイントをどう獲るか。全日本で対戦する時には完璧だと思うような選手でも、何試合もリーグで戦い続けていれば得意なコースや苦手なコースもだんだん分かり始める。大げさじゃなく、そこにいるだけで“世界”が見える気がしました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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