世界ジュニアに見た陸上界の成果と課題 東京五輪世代の活躍を未来につなぐために

折山淑美

過去最高の成績をマーク

世界ジュニアで日本勢が大健闘。個々の勝負に対する高い意識が結果につながった 【Getty Images】

 7月22日から27日(現地時間)まで米国・ユージーンで開催された陸上の世界ジュニア選手権。43選手を派遣した日本は、金メダル1を含めた6個のメダルを獲得し、4位以下の入賞は15。大会のメダルランキングでは10位となり、入賞の得点合計で争うプレイシングテーブルは3位のドイツに4点差の4位(83点)と大健闘、過去最高だった10年モンクトン大会(カナダ)の成績も上回った。

 好成績を残した種目を見ると、いずれもシニアが世界と戦えている種目というのが特徴でもある。1万メートル競歩では、松永大介がチーム唯一の金メダルを獲得し、山下優嘉(ともに東洋大)も4位入賞を果たした。これは、20キロで鈴木雄介(富士通)が今季世界リスト1位で、高橋英輝(岩手大)も3位にランキングしている現状が後押ししているからだろう。

 ジュニアの世界リスト1位で、今大会の優勝候補として臨んだ松永は、「5月のワールドカップ(ジュニア男子10キロ)では2位だったが、優勝した中国選手が出場しなかったし、自分はロードよりトラックの方が得意だから……。ワールドカップで他の選手の力も確認できていたので、『おそらく負けることはないな』と思っていた」と言う。

 大会4日目の午前のレースだったが、「スタートでちょっと前に行こうかと思ったくらいだったけれど、前半から体が動いていて」と言うように、スタートからひとり飛び出して独歩状態に入ると、そのまま逃げ切り、2位に24秒40差をつける39分27秒19の大会新で優勝した。
「鈴木雄介さんでも銅メダルだったので、最低でもそれ以上の成績をと思っていた。今年は海外の試合が多かったので、その中での調整も一から勉強できた。次の目標は、来年2月の日本選手権20キロまでに雄介さんや高橋さんらと対等に戦える力をつけて、(来夏の)世界選手権の代表になること」と、高い意識を持っているのが勝因のひとつでもある。

桐生のメダル獲得が起爆剤に

 一方、桐生祥秀(東洋大)が100メートルで銅メダル、4×100メートルリレーでも銀メダルを獲得した男子短距離勢の好成績も、各自がメダルへの強い意識を持って臨んだ結果だ。
 中でも桐生は、6月に右足裏を痛めた影響で、練習を再開できたのが7月に入ってから。スパイクを履いたのも渡米1週間前と、万全な状態ではなかった。さらに、出場選手中のランキングは2位ながら、今年9秒97を出しているトレイボン・ブロメル(米国)や、10秒1台のジャマイカ勢も2人いる厳しい状況。その中で、準決勝はタイムで拾われる危うい通過をしたものの、決勝では対等に戦って銅メダルを獲得し、チームに勢いをつけた。

 桐生の活躍に周囲も刺激を受けた。200メートルでは、小池祐貴(慶応大)が「力を出し切れば勝つのも可能。1位か8位かというレースをした」と、持ちタイム上位の選手に食らいついて4位入賞。しかし、小池はそれでも悔しがっていた。また「来る前は予選を通ればと思っていたくらい」という森雅治(大東文化大)も、ユージーン入りしてから走りのコツをつかんだと語り、決勝まで進出して6位になった。

 さらに、ロングスプリントの400メートルでも出場した日本勢が2人とも決勝へ進み、加藤修也(早稲田大)が2位、油井快晴(順天堂大)が7位に入った。

 そして、そんな選手の力を結束させたリレーでも結果が出た。4×100メートルリレーと4×400メートルリレーで、ともに米国に次ぐ2位になったのだ。特に前者は、02年以来2位以内を外さない安定感を保っていたジャマイカを破ってのことだった。

世界に向き始めた選手の意識

「東京五輪が決まって以降、去年から合宿で選手たちに、『ただ参加するだけではなく、どうやって戦うか』ということをずっと言ってきて、世界一を目指そうとみんなやってきた。そういう準備もあって、メダルを狙う意識が少しずつ浸透しているのだと思います。選手権大会というのはメダルを獲得することが最も大事なことだが、みんながそういう意識を持ち始めれば入賞は当たり前になる。その結果がプレイシングテーブル4位という結果になったのだと思います」

 こう話す山崎一彦監督(日本陸連強化育成部長)は、その中で同種目でのダブル入賞が多かったことも大きな成果だと言う。中でもシニアが苦戦している走り幅跳びでは、城山正太郎(東海大北海道)が3位、佐久間滉大(法政二高)が5位になった。そういう結果が、種目全体のパフォーマンスレベルを上げるきっかけにもなるはずだ、と。

 大会を振り返れば、6個のメダルはすべて偶然取れたものではなく、狙って手にしたものだというところにも価値があるだろう。女子はメダルゼロに終わったが、3000メートルで4位になった高松望ムセンビ(大阪薫英女学院高)は「メダルを逃したのが悔しい。私はもう1回、世界ジュニアに出るチャンスがあるので、2年後は5000メートルで絶対にメダルを取りたい」と宣言するほどだ。

 山崎監督は「今回はインターハイと日程が近いにもかかわらず、高校生が多いのが特徴的です。高校の先生の中には、『インターハイより世界が大事だ』と送り出してくれる人も増えてきたし、選手自身も世界ジュニアへ出たいと希望する者は多かった。そんな意味では、選手の意識も世界に向き始めていると思う」と話す。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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