KOでV11を達成したゴロフキンの想い=「ミドル級統一へ誰とでも戦う準備ある」
過去最高の対戦相手に3Rでフィニッシュ
32戦で一度も倒されたことがなく、過去最高の対戦相手と言われるダニエル・ギールに3RTKO勝利を収め、11度目の防衛を果たしたWBA世界ミドル級王者ゴロフキン 【Getty Images】
7月26日、米国マディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)で行なわれたWBA世界ミドル級王座の11度目の防衛戦でも同じだった。元WBA、IBF王者で“過去最高の対戦相手”と言われたダニエル・ギールに対し、第2ラウンドに先制のダウンを奪った末に、続く第3ラウンドに右を打ち込んで再びダウン。これまでの32戦で一度も倒された経験がなかったオーストラリアの雄に、3ラウンド2分47秒で圧倒的なTKO勝ちを飾った。
「第2ラウンドの途中までは慎重に戦ったけど、相手の動きを見切った後は積極的にアタックした。そうなったらもう時間の問題だったよ」
そう語ったゴロフキンはこれで17連続KO勝利で、世界タイトルの防衛戦はすべてノックアウトで飾ったことになる。KO率90%はすべての世界タイトル保持者の中で最高。特に相手の右を軽く受けながら、ものともせずに右オーバーハンドを叩き付けた最新のKO劇はインパクト十分で、フィニッシュの映像は今後も繰り返し流されるはずだ。
直前には村田とも手合わせした32歳のカザフスタン人
11度目の防衛戦前には日本の村田諒太ともスパーリングを行ったゴロフキン。11度目の防衛戦では右オーバーハンドで戦慄のKO劇を飾った 【Getty Images】
敗れたギール側のプロモーターであるゲイリー・ショウのそんなコメントは、試合直後の興奮から導き出された面も多少はあったかもしれない。
しかし、常軌を逸したパワーだけでなく、プレッシャーの掛け方に抜群のうまさを見せる32歳のカザフスタン人の能力は紛れもなく本物。この業界で約45年を過ごして来た名物プロモーターの言葉を、笑い飛ばせるものはもう1人もいないはずである。
徐々に世界的に広がるその評判に加え、今月上旬には村田諒太ともスパーリングを行なったと報道され、ゴロフキンの日本での知名度は上がりつつある。
「ムラタとは軽いワークアウトだった。スパーリングと呼べるほどのものでもなかったよ。彼とは毎日いろいろ話はしたけどね」
スパーの件について本人に訊くと、軽く受け流されてしまった。しかし、村田が目指す世界の頂点に君臨する最強王者として、今後のゴロフキンはアジアでも熱い視線を浴び続けることは間違いない。そして、今回のギール戦では名高いMSGの大アリーナに8572人の観衆を集め、その人気、話題性がアメリカでも高まっていることを証明してみせた。
ミドル級最高の選手は誰か?真の王者は誰か?
メイウェザー、パッキャオ引退後のドル箱候補に上がるゴロフキン。30戦全勝(27KO)の怪物は、ミドル級統一戦を目論む 【Getty Images】
「私の現在の興味はミドル級にある。統一戦がしたいね。ミドル級最高の選手は誰か? 真の王者は誰か? それを決めるのは自分にとって重要なことなんだ。ミゲール・コット、ピーター・クイリン、サム・ソリマン……多くのチャンピオンがいるけど、素晴らしいショーが観たかったら、また私を呼んで欲しい。誰とでも戦う準備ができているよ」
ギール戦後、試合が終わると子供のような無邪気な表情を見せるゴロフキンは笑顔を浮かべてそう語り残した。
ここで名指しされたコットとは、プエルトリコ史上初の4階級制覇を達成し、プエルトリカンの多いニューヨークで絶大な人気を誇る英雄。過去7戦中4戦をニューヨーク州で戦って来たゴロフキンとコットの統一戦が実現すれば、“ブロードウェイの新旧エース対決”として爆発的な話題を呼ぶはずだ。
ただ……もともとスーパーライト級から王者としての経歴をスタートさせ、骨格で大きく劣るコットが、ミドル級で豪快なKOを連発するゴロフキンの対戦希望を簡単に受け入れるとは思えない。その他、スーパーミドル級の帝王アンドレ・ウォード(米国)、勝負強いカール・フロッチ(イギリス)、WBO世界ミドル級王座を保持するクイリン(米国)、商品価値の高いフリオ・セサール・チャベス・ジュニア(メキシコ)、人気者のサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)といった候補がいるものの、階級、テレビ、プロモーターの違いもあって、試合成立は容易ではない。結局、ギールと同じオーストラリア出身で、IBF世界ミドル級王座を持つソリマンとの統一戦あたりをまとめるのが精一杯かもしれない。
全世界に轟かせるビッグファイトの実現を――
米国では全国区とは言えないものの、目の肥えたニューヨークのボクシングファンの度肝を抜くKO劇を披露したゴロフキン。真の意味で全世界に轟かせるビッグファイトの実現が待ち望まれる 【Getty Images】
ゴロフキンのプロモーター、トム・ローフラーはそう述べる。実際に知名度急上昇中とはいえ、米国では全国区とは言いきれないゴロフキンが階段を上るには、ギール、ソリマンよりももう一段上の対戦相手が必要になるだろう。
後世に語り継がれるレベルの実力者かもしれないゴロフキンの力を最大限に引き出すためにも、米国、イギリス、メキシコの強豪たちが重い腰を上げることを願わずにはいられない。そのとき、このミステリアスなモンスターの真の価値がついに世にさらされるに違いないからだ。
ニューヨークで新たな電撃KOを披露し、目の肥えたファンの度肝を再び抜いてみせた。カザフスタン生まれの伝説は続き、そして、その名前を真の意味で全世界に轟かせるビッグファイトの実現を、今では多くのボクシングファンが胸をときめかせながら待っているのである。
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