スアレスの加入は吉と出るか凶と出るか!? エンリケ監督率いる新生バルサの挑戦

工藤拓

南米最強3トップへの期待以上に……

8100万ユーロ(約112億円)もの移籍金でバルセロナに移籍したスアレス。クラブの期待に応え、新たなスターとなるのか 【写真:Action Images/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)決勝から一夜明けた7月14日、ルイス・エンリケを新監督に迎えた新生バルセロナのプレシーズンが始まった。W杯出場組を除く10選手に13人のカンテラーノ(下部組織出身選手)を加えたチームは初日にメディカルチェックを行い、2日目にピッチでのトレーニングを始動。3日目の16日には“ルチョ(ルイス・エンリケの愛称)”が就任時以来となる会見を行った。

 スポーツディレクターのアンドニ・スビサレッタも同席したこの日の会見にて、最も多かったのは新加入選手とさらなる補強についての質問だ。中でも8100万ユーロ(約112億円)もの移籍金を払って獲得したルイス・スアレスの加入については、現状リオネル・メッシ、ネイマールと織りなす南米最強3トップへの期待以上に、問題児の加入を不安視する声の方が多く聞こえてくる。

 最大の懸念は、先のW杯でも見られた“かみ癖”に代表される精神的な未熟さだ。

 アヤックス時代の2010年に初のかみつき事件を起こして7試合の出場停止処分。リバプールに移籍した翌11年には、パトリス・エブラへの人種差別発言で8試合出場停止。昨年のチェルシー戦では2度目のかみつき事件を起こして10試合出場停止。そして今回のW杯における3度目の再犯で、代表戦9試合出場停止と4カ月の「サッカーに関わるあらゆる活動の禁止」という厳罰を受けた。

 処分が解ける10月末まで試合どころかチーム練習への参加も、加入時のプレゼンテーションすら許されないスアレスに対し、ジョセップ・マリア・バルトメウ会長は「彼は自分のミスを認めた。バルサは彼が再びフットボール界で成功できるようサポートするつもりだ」と“社会復帰”を全面的にサポートする意思を示している。だが、これまで彼はそんなクラブの努力を何度も裏切ってきただけに、再び愚行が繰り返される可能性は十分にある。

決して消えることのない“悪童”のイメージ

 しかも彼は事件直後にFIFA(国際サッカー連盟)に提出した報告書にて「かんではいない。バランスを崩して顔が当たっただけだ」と事実を否定しており、後に謝罪文を公表したのはバルサに求められたからだと言われている。つまり、本当に反省しているかどうかも怪しいのだ。

 そしてもし本当に反省しているとしても、その汚名が世界中に認知されてしまった今、彼はどこに行っても決して消えることのない“悪童”のイメージを背負い続けなければならない。それもフェアプレー精神を重視するプレミアリーグよりずっと狡猾(こうかつ)で陰険なやじや挑発行為が横行する、リーガ・エスパニョーラの舞台で。

 そのことを誰よりも懸念しているのは、自身もレフェリーの足を踏みつけて2カ月の出場停止処分を受けた経験がある“元悪童”、フリスト・ストイチコフ(元バルセロナ)だ。

「かみつき事件のイメージは生涯つきまとう。彼の“前科”はバルサでプレーする上で問題になるだろう。あらゆるライバル、レフェリー、メディアが彼の人生を苦しめるはずだ。挑発行為やメディアの注目を受けながら、常に緊迫した精神状態でプレーしなければならないのだから」

 実際、英国メディアから受ける執拗(しつよう)なバッシングには今も苦しんでいる。

「リバプールはクラブのイメージを汚し続けてきた選手を手放せたことを喜ぶべきだ」

「かみつき男、人種差別主義者のペテン師、といった汚名を持つ恥ずべきストライカーが犯した(ジョルジョ・)キエッリーニへのかみつき行為は、これまで彼を大いにサポートしてきた誇り高きクラブに対する最後の侮辱となった」

 これは先日、『デイリーメール』の電子版が彼のバルサ移籍を伝えた文面だ。スアレスがW杯でイングランド代表相手に2ゴールを決め、グループ敗退に追い込んだことに対する恨みもあるのだろう。だが、それを差し引いても英国メディアの「スアレスたたき」は行き過ぎな印象がある。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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