柿谷曜一朗、才能を解き放つため欧州へ セレッソに別れを告げ新たな挑戦に挑む

川端暁彦

学生のころから非凡な能力を見せていた

4歳から育ったセレッソに別れを告げ、スイス・バーゼルへ完全移籍をする柿谷 【写真:松岡健三郎/アフロ】

 柿谷曜一朗は4歳で初めて身を包んだピンク色のユニホームを脱ぎ捨て、24歳の夏に異国の地へと旅立って行った。セレッソ大阪からスイス・バーゼルへの完全移籍。それを性急な別れだと思ったファンもいただろうし、裏切りと捉えた者もいたようではある。

 ただ多くのC大阪ファンにとっては、覚悟の別れだったに違いない。遠からずこの日が来るであろうことを、柿谷は昨季の時点で感じさせていたし、それこそ多くのファンは16歳で彼がトップチームのピッチに立ったときからその才能が国内に収まりきらない可能性も感じていたはずだ。その意味では遅い別れだった。そういう言い方も、できるかもしれない。

 中学生のときから高校生に混じって試合出場を重ねていた柿谷のプレーは、当然ながら当時から非凡なモノを感じさせた。遊び心あふれるプレーは全国大会になっても物怖じすることなく、センターサークル付近から突然ゴールを狙って相手GKの度肝を抜いて観衆のどよめきを誘うと、イタズラを成功させた悪ガキのようにニヤリと笑う。そんな選手だった。「久々に10番の似合う“ファンタジスタ”が出てきたな」。14歳の彼を見て、そんなことを思ったのを覚えている。もちろん柿谷と言えば「8番」なのだが、もっと漠としたイメージとして、彼に「10番」の資質を感じたわけだ。

Uー17代表で「10番」タイプの1トップも経験

2007年のU−17W杯では故障もあってフル稼働とはいかなかったが、3試合で2得点を挙げた 【写真:アフロ】

 城福浩監督(当時。現・ヴァンフォーレ甲府監督)が率いたU−16・17日本代表においては、うまさとスピード感を備えた選手、まさにエースとして君臨した。アジア予選までは中盤のサイドでプレーすることが多かったが、城福監督はあえて柿谷の役割を固定しようとしなかった。唯一のプロ選手ではあったが「『柿谷のチーム』にするつもりはない。特別扱いはしない」と強調。「MOVING FOOTBALL」の旗印の下で守備も要求したし、オフ・ザ・ボールでの動き出しもしつこく求め続けた。後に柿谷は「城福さんのスタイルこそ日本人が目指すべきサッカーやと思う」と語っている。後に彼を大きく飛躍させることになる1トップでのプレーも、この代表で経験することになった。

 2007年のU−17ワールドカップ(W杯)においては、故障もあってフル稼働とはいかない上、チームは惨敗模様という状況で2得点を奪取してみせた。ただ、当時の彼はまだ「ストライカー」だったわけではない。たとえFWで起用されても2列目に落ちてくることを好んでいたし、そもそも2列目に配されることのほうがずっと多かった。いまと違って、スーパーシュートを決める一方で淡泊なシュートミスも非常に多く、フィニッシャーとしての「質」はまだまだ低かった。

 より正確に言えば、彼のような「10番」タイプの選手はトップ下で最も輝くと思われていたし、それが自然な時代でもあった。いまにして思えば城福監督は敏感に時代の先を感じていたのだと思うが、FCバルセロナの台頭とともに「屈強なFWに最前線を託す」というセオリー自体が少しずつ崩れていく。

 169センチのリオネル・メッシが最前線を任されるようになり、世界的にも軽量級の選手を1トップに置くことが1つのムーブメントになった。それは今回のW杯を見ていても、1つの傾向として読み解くことができる。今年の春に柿谷へインタビューをさせてもらった際に、そのことを少し突っ込んでみた。意外なほど彼も「時代」のことは強く意識していて、「メッシやクリスティアーノ・ロナウドのような選手がこれだけ点を取っている時代」という言葉で、かつてサイドや中盤で「魅せる」ことを求められたようなタイプの選手が、フィニッシャーとしての質と役割を求められるようになったことを感じていた。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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