W杯決勝で覆ったフットボール界の関係性 ドイツが手にした極めて正当な勝利

やはりドイツに勝てないアルゼンチン

2006年と10年に続き、またしてもW杯の舞台でアルゼンチンに勝利を収めたドイツ 【写真:ロイター/アフロ】

 ニコラ・リッツォーリ主審の笛が試合終了を告げた直後、アルゼンチンのハビエル・マスチェラーノが大泣きする姿は我々の心を大きく揺さぶった。ワールドカップ(W杯)3大会連続で、しかも今回は優勝のかかった決勝の舞台で、またしても彼らの夢はドイツによって阻まれた。同時に、1つの世代が描いてきた夢が終わってしまったのだということを、彼の涙は物語っていた。

 2006年ドイツ大会の準々決勝はわずかな差で勝敗が決まった。アルゼンチンがゲームを支配していたにもかかわらず、交代策の失敗によってドイツに引き分けに持ち込むことを許し、PK戦で涙をのんだからだ。その4年後の南アフリカW杯、同じく準々決勝で実現した再戦はまったくもって試合にならず、開始10分で勝負が決してドイツが4−0と大勝した。マラカナンで行われた今回の決勝は過去の2試合とは異なる一戦となったが、やはりアルゼンチンは勝てなかった。

 システムや戦術が急激に進化した現代のフットボールにおいては、選手交代の人選やタイミングのミスが勝敗に直結することも珍しくない。ましてや一発勝負のW杯決勝では、わずかなディテールの差が勝敗を分けるようになっている。

早すぎたサベージャ監督の決断

 強力な攻撃陣と貧弱な最終ラインを持つアンバランスなチームから、守備は堅いが攻撃の効率性に欠ける負けにくいチームへ。今大会を通し、アルゼンチンはまったく異なるチームへと姿を変えながら紙一重の勝利を重ねてきた。対するドイツはボールの支配力に長けた完成度の高いチームで、準決勝ではまるでファンを招いた公開練習であるかのようにブラジルをもてあそび、7−1という恐らくフットボール史上最も大きな衝撃をもたらした結果を手にしていた。

 チーム力で上回るドイツに対し、中心選手のアンヘル・ディ・マリアをケガで欠くアルゼンチンが勝つためには、完璧な試合をしなければならない。アレハンドロ・サベージャ監督は前日会見でそう言っていたが、彼自身もまた1つのミスも許されない完璧な采配を全うする必要があった。

 ドイツがゲームを支配するも、決勝トーナメントの3試合すべてを完封してきたアルゼンチンの最終ラインを崩すには至らない。予想通りの展開となった試合にはしかし、1つ意外な点があった。ドイツが失点に直結する致命的ミスを何度も犯したこと、そしてアルゼンチンも第一にゴンサロ・イグアイン、続いてリオネル・メッシがそのチャンスを生かせず、決定機を逃し続けたことだ。

 そのため、アルゼンチンは最も恐れていた延長戦を戦わなければならなくなった。スタミナ勝負の延長戦に入れば、フィジカルで上回る上に1日長く休みを得たドイツの有利は大きくなる。ゆえにサベージャは90分間で勝負を決めるべく、ハーフタイムの時点でエセキエル・ラベッシをセルヒオ・アグエロに代える攻撃的なシフトチェンジを行ったのだが、結果的にこの交代は早すぎる決断となってしまった。

 この交代により、アルゼンチンは前半を通して素晴らしいプレーを見せていたラベッシだけでなく、貴重な交代枠を1つ失うことになった。続いて、まだ走れていたイグアインをロドリゴ・パラシオに代えたサベージャは、86分の時点で最後の交代枠を使い切ってしまう。疲れているように見えたとはいえ、ハードワーカーのエンソ・ペレスをフェルナンド・ガゴに代えた彼の判断は、やはり早すぎた。ほどなくルーカス・ビリアが足を痛めたことで、その後アルゼンチンは“10.5人”でのプレーを強いられることになったからだ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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