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運営面はおおむねスムーズなブラジルW杯
異常な物価高騰と失敗したインフラ整備

途中で止まっているインフラ整備

開幕直前までスタジアム建設が続くなど、インフラ整備に関しては大きな問題があった
開幕直前までスタジアム建設が続くなど、インフラ整備に関しては大きな問題があった【写真:ロイター/アフロ】

 インフラ整備からも、ブラジルという国の難しさが浮かび上がってきた。前述の通り、今大会は12会場で試合が開催されたが、ブラジリアのエスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリアに約850億円、サンパウロのアレーナ・デ・サンパウロに約600億円、マナウスのアレーナ・アマゾニアに約350億円、クイアバのアレーナ・パンタナールに約300億円と尋常でない金額がスタジアムに投じられているという。


「それなのに、ブラジリアとマナウスとクイアバにはトップリーグのチームがない。世界最高クラスの建設費をかけて作った豪華なスタジアムを、この先アマチュアの地方大会くらいにしか使うチャンスがないのはいかがなものか。これは本当に深刻な問題だ。加えて、W杯開催のためのインフラ整備は途中で止まっているケースが目立つ。ベロオリゾンテはBRT(バス輸送サービス)の停留所が完成し、実際のお客さんの輸送もまずまずうまくいったが、地下鉄の建設は途中でストップしたまま。サルバドールなどもわずか7キロしか地下鉄建設工事が進まなかったと聞いている」と、アルメイダ記者は嘆いていたが、実際に町中を掘り返している開催地はかなりあった。


 その筆頭が、日本がコロンビアに惨敗した地、クイアバだ。空港に着いて少し外に出るだけで道路は至るところが工事中。スタジアム周辺も整備が終わっていなかった。もちろんホテルも足りず、サポーター収容対策として空港内のファンゾーンを設置し、仮眠できるスペースが用意されていた。ホテルは高騰し、古くてボロボロ。インターネットもつながったりつながらなかったり、といったホスピタリティーのくせに1泊2万円以上というケースがザラにあった。そういう環境だけに、今後の観光需要は見込めない。豪華なスタジアムだけが残るという不可思議な状況になってしまうのは、やはり気がかりだ。

ロシア大会で生かしたいブラジル大会の良い面悪い面

アレーナ・デ・サンパウロは、投資額が非常に大きかったにも関わらず、屋根もすべてのスタンドに架かっていないうえに駅からも遠い
アレーナ・デ・サンパウロは、投資額が非常に大きかったにも関わらず、屋根もすべてのスタンドに架かっていないうえに駅からも遠い【写真:ロイター/アフロ】

 4年後の次回W杯開催地であるロシアのサッカー専門ウェブサイト『Champion.com』のアレキサンダー・シュルムホフ記者も「ブラジルのスタジアムのすべてがロシアの参考になったわけではない。投資額が大きかったアレナ・デ・サンパウロなどは悪しき例だと思う。屋根もすべてのスタンドに架かっていないし、メトロの最寄駅『コリンチャンス・イタケーラ』から徒歩で20分近くかかって遠すぎる。車で来ようにも、サンパウロ市内はいつも混雑しているから簡単ではない」と厳しい評価を下していた。「次回、モスクワではルジニキ(ナショナルスタジアム)とスパルタクの新スタジアムが使われるが、どちらも最寄駅から近く、市内中心部からメトロで15分程度で行ける好立地にある。サンパウロのようなことはないだろう」と彼は自信をのぞかせた。


 ただ、ブラジル同様、ロシアも宿泊施設の高騰は必至という見方をしていた。


「今回のブラジルでは、試合当日のホテルの宿泊費が高く、場合によっては数万円に上るケースがあったが、ロシアもホテル事情が悪い。アパートを持つ人が貸し出す例は増えるかもしれないが、そのあたりが心配だ」とシュルムモフ記者は語っていた。


 ホテルのみならず、今回のブラジルでは国内エアチケット、レストランなど、ありとあらゆるところの物価が高かった。コンフェデ杯が開催された1年前と比較すると、2〜3割増という印象を強く受けた。


 ブラジルによくある「ポルキロ」という量り売りのビュッフェ形式の飲食店を例に挙げると、1年前は15〜20レアル(約700〜900円)程度で十分すぎるほど食べることができたのに、今年は25〜30レアル(約1200〜1400円)出さないといけない状況が少なくなかった。もちろん大都市ほど高く、地方都市ほど安い傾向はあったが、値段が上がったのは間違いなかった。


「ホテルやエアチケット、レストランとすべてがW杯で便乗値上げされている。その動きは5月に始まり、W杯が終わる7月までは確実に続く。その後も値下げはされないだろう。政府もそういう動きに歯止めをかけようとしたが、実際にはうまくいかなかった。正直、自分自身も物価が高くて困った」とアルメイダ記者も苦笑していた。有力国が次々と敗れ、人が去っていくにつれてホテル代などは値下げの方向に傾いたが、大会を通して現地に滞在した者としては、コスト的にはかなり厳しかった。


「ロシアはブラジルほど基本的な物価は高くないし、ミドルクラスのレストランもたくさんある。タクシーなどの交通機関もそこまでの値段にはならないと思う。ブラジル大会でよかった面、悪かった面を我々の国で生かさなければいけない」とシュルムホフ記者は強調していた。


 18年ロシア大会では、すべてのメディアや関係者、サポーターが安価で安全・快適な滞在ができ、W杯を存分に楽しめるような対応をぜひともお願いしたいものだ。

元川悦子
元川悦子

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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