運営面はおおむねスムーズなブラジルW杯 異常な物価高騰と失敗したインフラ整備
交通機関や大会運営は正常に機能
ここまでのブラジルW杯を振り返ると、スタジアムでのホスピタリティーなどこれまでのW杯と同様に快適。運営面はおおむねスムーズだったという評価が多い 【写真:Action Images/アフロ】
「メディアセンターや記者席などのFIFAゾーンやメディアシャトルなどの運行体制などは問題なかったのではないか」と語るのは、ブラジル・ベロオリゾンテの日刊紙『O Tempo』のフェルナンド・アルメイダ記者。彼の指摘する通り、我々メディアが利用する場所はインターネット回線も確実に整備され、記者席にもテレビモニターが設置されるなど、これまでのW杯と同様に快適だった。
懸念されていた交通アクセスの面も大きなトラブルはなかった。1年前のコンフェデレーションズカップの際には、デモの発生によって飛行機の遅延などが相次いだため、大会前は「サンパウロ周辺で数百キロの大渋滞が起きる」「ストやデモで飛行機の運航の欠航や遅延が相次ぐだろう」といった懸念があちこちでささやかれた。だが、ふたを開けてみると、大渋滞や飛行機の欠航・遅延に遭遇することはなかった。ブラジルではW杯期間、学校や仕事を休みにしたところが多かった模様で、それもサンパウロなど大都市周辺での混乱を減らすのに役立ったようだ。
実際、私自身も日本代表のベースキャンプ地だったイトゥとサンパウロ西部のバラ・フンダのバスターミナルを何度も往復したが、所要時間で1時半以上かかったのは1回だけ。飛行機にも大会を通して10回は乗ったが、すべて定刻通りに到着した。あまりにスムーズだったので、こちらが面食らったほど、交通機関は正常に機能していた。
一方で貧富の差が生む現実も
スタジアム周辺を離れると、盗難や強盗などの事件に巻き込まれるケースは少なくなかった。貧富の差が激しい、この国の難しさである 【写真:ロイター/アフロ】
「試合の日には凄まじい数の警察官を配置して警備体制を強化していたし、準決勝のチケットが1枚・4000レアル(約18万円、カテゴリーによって差あり)とチケットが非常に高額だったので、実際にスタジアムに来ることができたのは富裕層だけだった」と前出のアルメイダ記者は語っていたが、確かに物々しい雰囲気は感じられなかった。こうした厳重なセキュリティ体制から、同大会に1兆円以上の投資をしたブラジル政府の本気度がうかがえた。
ただ、スタジアム周辺を離れると、メディア関係者や観戦客が盗難や強盗などの事件に巻き込まれるケースは少なくなかった。恥ずかしながら、私自身もその1人だ。ラウンド16から準々決勝の間、滞在したサルバドールの海岸沿いの道でひったくり犯に遭遇し、逃げようとして深い溝に転落し、腕を負傷してしまったのだ。貴重品の被害はなく、不幸中の幸いではあったが、北部の海岸エリアではそういう事件が1日数百件は起きているという。他のメディア関係者でも置き引きなどの被害を数件、耳にした。
「ブラジルは貧富の差が非常に激しいため、危ない場所に行くと本当に危険。いつどこで泥棒に遭うか分からない」とアルメイダ記者も申し訳なさそうにコメントしていた。それがブラジル社会の現実でもある。そういう貧困層にしてみれば、巨額の投資をしてW杯を開催されても、税金負担ばかり増えて暮らしが楽になるわけではない。むしろ不満が募って当然の状況なのだ。スタジアム以外で大会があまり盛り上がっていない印象だったのも、こうした背景から来る部分なのかもしれない。この国の難しさを身をもって感じる側面だった。