大記録を塗り替えたFWクローゼの素顔 人々に愛される経験豊富な“ジョーカー”

準々決勝からシステムを変え、先発でFWに

決勝戦でもクローゼが活躍をみせることは十分に考えられ、さらなる得点記録更新にも注目が集まる 【写真:ロイター/アフロ】

 02年のW杯日韓大会でハットトリックをした後、クローゼはゴールを奪う秘訣を明かしていた。「僕にはいつも適切な監督がついていた。彼らは僕を常に信頼してくれて、調子が悪い時には助け出してくれた。監督が信頼してくれるというのは、大きなことなんだ」。クローゼはレーブにとって特別な存在であり、この数年でベテラン選手を代表から外してきた指揮官から、絶大な信頼を受けてきた。

 クローゼが例外となったのは、彼のコンディション同様、その傑出した能力のためである。では、コンディションを整える秘訣は何なのか?
「特別なことなんて何もしないよ。強いて言えば、たくさん寝ることだね」。キャンプ中に他の選手たちが一緒に腰を下ろしていても、クローゼは21時半には明かりを消して、ベッドへと入るのだという。

 フランスとの準々決勝で、クローゼは先発のラインナップに戻った。多くのドイツ人にはノスタルジーを感じさせるこの光景は、レーブの近年の攻撃哲学にとっては問題となった。“偽9番”を置く4−3−3の布陣で、マリオ・ゲッツェとメスト・エジルはグループリーグではウイングとして輝いてきた。

 レーブはW杯におけるプランを、フランス戦で突然変更した。キャプテンのフィリップ・ラームを最終ラインへと戻し、クローゼをFWとして先発させるとは、予想されないことだった。『レ・ブルー(フランス代表の愛称)』相手にバランスは悪くなかった。クローゼに得点は生まれず、おそらく彼にとってベストの出来ではなかったが、彼の存在がエジルらに中盤で多くのスペースを与えたのは確かだ。

さらに記録を更新する可能性もある

 準決勝で、歴史的なゴールを挙げたクローゼ。しかも、かつて「怪物」ロナウドが身にまとった、カナリア色のユニホームを着た今大会のホスト国を相手に。クローゼのクオリティーを考えれば、非現実的なことではなかった。それでも06年ドイツ大会の得点王は、記録更新が「一番大事なことではない」と強調する。
 ただし、本音がのぞくこともある。大会前に、「僕は一番になりたい。そうなると思うとワクワクする。当然だよね」と話したこともあった。

 4大会の23試合を費やして、クローゼはこの記録に到達した。ロナウドは、W杯19試合で15得点をたたき出していた。歴史書をひもといてのそうした計算に、関心を持つ者はいない。準決勝を前に、「記録を破られることを恐れはしない」と話したのはロナウドだ。クローゼがもう1点追加しても、傷つくことはないとロナウドは語っていた。ただし、自身の代表チームが相手となれば別の話だった。だから、「ドイツ人が誰も得点しないよう」願うのだと付け足していた。

 準決勝前、クローゼは「そのことは考えない」と語るばかりだった。「僕が興味あるのは準決勝だけだ。1歩目を踏み出す前に、2歩目のことを考えるべきじゃない」とブラジル戦の勝利だけに集中していた。
 本人は語らないが、まだ得点は奪えるはずで、さらなる記録の更新も可能だと思われる。そんなシーンを思い描くことは、実に意義あることだと思える。

(翻訳:杉山孝)

2/2ページ

著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント