大記録を塗り替えたFWクローゼの素顔 人々に愛される経験豊富な“ジョーカー”
準々決勝からシステムを変え、先発でFWに
決勝戦でもクローゼが活躍をみせることは十分に考えられ、さらなる得点記録更新にも注目が集まる 【写真:ロイター/アフロ】
クローゼが例外となったのは、彼のコンディション同様、その傑出した能力のためである。では、コンディションを整える秘訣は何なのか?
「特別なことなんて何もしないよ。強いて言えば、たくさん寝ることだね」。キャンプ中に他の選手たちが一緒に腰を下ろしていても、クローゼは21時半には明かりを消して、ベッドへと入るのだという。
フランスとの準々決勝で、クローゼは先発のラインナップに戻った。多くのドイツ人にはノスタルジーを感じさせるこの光景は、レーブの近年の攻撃哲学にとっては問題となった。“偽9番”を置く4−3−3の布陣で、マリオ・ゲッツェとメスト・エジルはグループリーグではウイングとして輝いてきた。
レーブはW杯におけるプランを、フランス戦で突然変更した。キャプテンのフィリップ・ラームを最終ラインへと戻し、クローゼをFWとして先発させるとは、予想されないことだった。『レ・ブルー(フランス代表の愛称)』相手にバランスは悪くなかった。クローゼに得点は生まれず、おそらく彼にとってベストの出来ではなかったが、彼の存在がエジルらに中盤で多くのスペースを与えたのは確かだ。
さらに記録を更新する可能性もある
ただし、本音がのぞくこともある。大会前に、「僕は一番になりたい。そうなると思うとワクワクする。当然だよね」と話したこともあった。
4大会の23試合を費やして、クローゼはこの記録に到達した。ロナウドは、W杯19試合で15得点をたたき出していた。歴史書をひもといてのそうした計算に、関心を持つ者はいない。準決勝を前に、「記録を破られることを恐れはしない」と話したのはロナウドだ。クローゼがもう1点追加しても、傷つくことはないとロナウドは語っていた。ただし、自身の代表チームが相手となれば別の話だった。だから、「ドイツ人が誰も得点しないよう」願うのだと付け足していた。
準決勝前、クローゼは「そのことは考えない」と語るばかりだった。「僕が興味あるのは準決勝だけだ。1歩目を踏み出す前に、2歩目のことを考えるべきじゃない」とブラジル戦の勝利だけに集中していた。
本人は語らないが、まだ得点は奪えるはずで、さらなる記録の更新も可能だと思われる。そんなシーンを思い描くことは、実に意義あることだと思える。
(翻訳:杉山孝)