大記録を塗り替えたFWクローゼの素顔 人々に愛される経験豊富な“ジョーカー”
W杯通算得点記録単独トップとなる16点目を奪う
準決勝ブラジル戦でW杯通算得点記録単独トップとなる16点目を奪ったクローゼ 【写真:ロイター/アフロ】
一方、2002年W杯日韓大会決勝のリベンジを果たし、3大会ぶりの決勝進出を果たしたドイツ代表。この一戦で注目の的となったのが、36歳のミロスラフ・クローゼだ。
ヨアヒム・レーブ(ドイツ代表監督)が言う『ゴールマシン』がセレソン(ブラジル代表の愛称)相手に先発するかは定かではなかった。しかし彼は先発でピッチに立つと、前半23分、歴史的なゴールを奪う。ペナルティーエリア内でトーマス・ミュラーから受けたボールをダイレクトで狙うと、一度は相手GKジュリオ・セーザルに防がれたものの、そのこぼれ球を冷静に押し込み、W杯通算得点記録で単独首位となる16点目を奪ったのだ。
ドイツサッカー連盟がチームスピリットを強調しており、サント・アンドレのベースキャンプ地で問題の中心となっていたのは、もちろん準決勝のブラジル戦であった。その次に来る話題は、もし準決勝でクローゼがW杯の通算得点記録を塗り替えたなら、決勝のピッチに立つのは誰になるのかということだった。
ロナウド(元ブラジル代表)はすでに引退しており、W杯通算得点記録の推移を見守ることしかできない。バルセロナにインテル、レアル・マドリー、ミランと各国の名門を渡り歩いた男は、4度のW杯で通算15得点を挙げた。
一方、ポーランド生まれのドイツ代表FWは、2−2で引き分けたガーナ戦で、その記録に並んだ。交代出場後のファーストタッチで、ゴールネットを揺らしていたのだ。
多くの人に愛されるFW
しかし、先発選手から「パートタイム」への変更は、この36歳にとって侮辱ではない。新たな役割に精神的に適合するには時間を必要としたが、クローゼはこう語っている。
「侮辱などされてはいないよ。こうしてチームを助けられることが分かっているからね。心構えができていることは、ガーナ戦で分かったはずだ」とのコメントを『キッカー』(ドイツのスポーツ専門誌)が伝えている。
クローゼは謙虚で現実的な男だ。口数は多くないが、チームプレーに徹する選手である。だからこそ、チーム内で高く評価されるのみならず、ブラジルのメディアもラツィオからやって来たストライカーを愛するのだ。ブラジルの『オ・エスタド・ジ・サンパウロ』紙は、ガーナ戦のクローゼを「ベンチから飛び出すと、物語の中へと入っていった」と記した。音楽で世界をわかせるブラジル人歌手・リアーナも「私のクローゼ」とツイッターでつぶやき、NBAで活躍するドイツ人プロバスケットボール選手ダーク・ノビツキも米国からSNSを通じて称賛を送った。
昔ながらの「背番号9」も汗をかくことを厭わない
13−14シーズンはケガに苦しんだクローゼは、その負傷を引きずり代表チームのW杯へ向けての準備の大部分に参加できなかった。だが、痛みが限界に達するまですべてを捧げて挑戦するというのは、このストライカーのプレースタイルの一部であり、得点能力の秘密の一部だった。少し前の会見では、「100パーセント調子が良かったことなんてない」と笑った。
30歳を過ぎてなお、最適なポジションを探して常にボックス内に立つ。この数年も、クローゼはその活動範囲と献身性とランニングでドイツ代表を手助けし、そうした要素をボックス外でも出し惜しみしなかった。昔ながらの『背番号9』のようにゴールを決めるかもしれないが、クローゼがもたらすものはそれ以上である。チームのためにコンディションを整えて汗をかき、スペースをつくり出し、だからこそ彼をマークするのは至難の業となる。