小林可夢偉を待つ、かくも厳しい未来 希望の光は…来季復帰のホンダか

田口浩次

突然の売却劇、気になるドライバーの今後

ケータハムで2年ぶりにF1復帰を果たした可夢偉。しかし、シーズン途中でのチーム売却となり、先行きは不透明なままだ 【写真:ロイター/アフロ】

 1950年から始まったF1グランプリ、その開幕戦はイギリスで行われた。つまり、シルバーストーン・サーキットはF1グランプリ誕生の地である。6日の決勝では、母国レースを戦ったルイス・ハミルトンが今季5勝目を挙げた。
 その数日前、日本のF1ファンにとってはもっと注目すべきニュースがあった。小林可夢偉が所属する、ケータハムのチーム売却が正式に発表されたのだ。

 ケータハムの新チームオーナーが、スイス在住のアラブ首長国連邦とクウェート出身の中東系投資家たちが中心となったコンソーシアム(共同の目的を持つ団体)であることは分かったが、代表者の名前などは明らかにされていない。また、チームの売却金額がいくらなのか、どのような売却条件かなど、詳細も一切伝わってこない。唯一、コンソーシアムが指名したアドバイザーのコリン・コレスが「もし彼らが手を挙げなければ、ケータハムはシルバーストーンにいなかっただろう」と語っていることから、具体的に今後の運営資金となる金銭のやり取りがあり、その資金でチームはイギリスGPに参加したのだろう。

 暫定的なチーム代表の立場には、元F1ドライバーのクリスチャン・アルバースが立つことが発表された。オランダ人のアルバースは、コレスがチーム代表だったミッドランドとスパイカーF1でドライバーを務めていた人物。日本のファンには、2006年のサンマリノGPで、スーパーアグリF1からデビューした井出有治に1周目で追突されてクラッシュしたドライバーとして記憶している人もいるだろう。

 レースチームの現場を取り仕切るマネジャークラスでも、今回の売却劇は突然の話だったという。ただ、一番気になるドライバーの今後については、特に変更はないと、現時点では確認されている。

 そんな渦中の可夢偉は「僕自身にとってはビジネス(契約)は特に変わりません。この先もケータハムのマシンをドライブするし、それが僕の仕事ですから。そして、15年もF1にいることを考えていて、それ以外のプランは検討していません」とインタビューに答え、オーナーシップが移っても自身の契約や状況に変化はないという報道を追認している。

エア・アジア経営者の感覚が早期撤退を決断

 それにしても、今回のチーム売却は一気に話が決まった印象がある。というのも、イギリスGPの前に行われたオーストリアGP開幕前、ケータハムはグリッドに並ばないというニュースが流れていたからだ。もし、オーストリアGP前にチーム撤退が決まった場合、08年のスーパーアグリF1以来のシーズン途中撤退チームとなるところだった。今回は最悪の結果にならなかったものの、F1では常にオーナーの交代やチームの撤退ということが繰り返されている。

 00年以降の歴史を振り返っても、12年シーズン後、スペインに本拠を持つ唯一のF1チームとして活動していたHRTが破産し撤退。08年にはシーズン途中に鈴木亜久里が率いたスーパーアグリF1が撤退。02年シーズン途中にはアロウズが、01年シーズン後にはプロストグランプリが撤退している。さらに、ホンダは08年シーズン限り、トヨタも09年シーズン限りでF1活動を撤退した。
 ホンダとトヨタの場合は、世界的不況の中、企業としてF1活動を撤退する決断であったが、それ以外のチームの撤退理由はすべて共通している。活動資金の枯渇だ。どのチームも資金面を保証できるバックボーンを持たず、常に綱渡りのような資金確保活動とグランプリ活動を並行し、いつしか資金拠出の目処が立たなくなり撤退していった。

 しかし、ケータハムの場合、チームオーナーはLCC(格安航空)最大手のエア・アジアを経営し、サッカー英国プレミアリーグのクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)のオーナーでもあるトニー・フェルナンデス。F1活動継続の負担は大きいものの、不可能だったわけではない。しかも、09年のチーム設立以降、スーパーアグリF1が使用していたリーフィールドに拠点を移したり、チーム代表にルノーから引き抜いたシリル・アブデビールを配置したり、マクラーレンで働いた経験を持つマーク・スミスをデザイナーに起用するなどなど、ポイント獲得の投資を惜しまなかった。しかし、過去4年間、成績は一向に上向く気配を見せなかった。

 そして「今年、結果が出なかったら撤退を考える」と明言した14年シーズン。レギュレーションが一新された同条件での勝負で、「可夢偉に期待している」というフェルナンデスの言葉にウソはなかった。しかし、開幕戦で絶望的なパフォーマンスの差を見せられ、F1へのモチベーションが一気に冷めたのと同時に、優れた経営者としての感覚が「これ以上の損失は認められない」と早期撤退を決断したと考えるべきだろう。株や為替の世界でも優れたトレーダーは、ロスカットの判断が優れていると聞く。フェルナンデスもまた、ロスカットの瞬間をためらわなかったのだろう。

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