ベスト4の顔ぶれに見る“W杯の真実” 伝統国が高いノルマを達成し続ける理由

勝利が義務づけられた開催国ブラジル

勝利が義務づけられた立場のブラジルは、エースのネイマールに頼ることで数々の困難を乗り越えてきた 【写真:ロイター/アフロ】

 今大会でブラジルと対戦したチームはいずれも、開催国が強いるいくつかの困難を受け入れなければならなかった。選手たちと数万人の観衆がアカペラで唄うブラジル国歌がラグビー・ニュージーランド代表の「ハカ」(ニュージーランドの民族舞踊)と同様の効果をもたらすことで、試合開始からの30分間はアドレナリン全開の地元チームが仕掛ける猛攻にさらされることになる。これまで、この時間帯を耐え抜いたチームはほとんどおらず、昨年のコンフェデレーションズカップ決勝で対戦したスペインは1分たりとも持ちこたえることができなかった。

 ただし、もしライバルチームが前半の猛攻を耐え抜くことができれば、後半は勝利が義務づけられた地元チームが一転して精神的なプレッシャーに苦しむことになる。PK戦の末に辛くも勝利を手にしたチリ戦は、まさにそんな展開となった。

 今大会を通して素晴らしい戦いを見せ、世界中を驚かせてきたコスタリカには準決勝まで勝ち進むチャンスがあったものの、より勝利にふさわしかったのはPK戦を制したオランダの方だった。各ラインに1人以上のクラック(名選手)を擁し、質の高いフットボールをもってダークホースと恐れられていたベルギーもまた、伝統国アルゼンチンとの準々決勝ではほとんど何もできなかった。

 そして長き伝統を持つフランスも、世界的強豪であるドイツとの対戦で敗退を余儀なくされた。手堅く、各ラインに質の高い人材をそろえるドイツは、南米開催のW杯でヨーロッパのチームが優勝した前例がないことは承知の上で、90年以降、手が届きそうで届かないタイトルに再び近づこうとしている。

決勝は毎回ほとんど同じ顔ぶれ

 勝利が義務づけられた立場であることがもたらす心理的な要因に加え、ベスト4に勝ち残ったチームには試合を決められる特別な選手たちがいた。今大会のブラジルは珍しく並のテクニックしかないチームであるが、彼らはエースのネイマールに頼ることで数々の困難を乗り越えてきた。

 ドイツは突出したスターがいない反面、すべてがそろっているチームだ。彼らはパワーやスタミナといった伝統的な強みに加え、移民2世の選手たちの台頭によって生じたテクニックの向上により、美しいパスワークによる連動性の高いプレースタイルをも身につけた。

 オランダは策士ルイス・ファン・ハールのクラシカルな組織的プレー、そしてウェスレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシー、アリエン・ロッベンのトライアングルによる刺すような速攻がミックスされたチームだ。そしてセルヒオ・アグエロの負傷に続いてアンヘル・ディ・マリアを失うなどトラブル続きながら、アルゼンチンには今大会の顔となるべきリオネル・メッシがいる。

 伝統国であることだけでは足りず、ベースとなるテクニックの高い選手を擁することも重要な要素である。だが結局、毎回決勝まで勝ち残るのがほとんど同じ顔ぶれであることもまた“W杯の事実”なのだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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