ベスト4の顔ぶれに見る“W杯の真実” 伝統国が高いノルマを達成し続ける理由

常に安定した成績を残すドイツ

74年のドイツW杯から現在に至るまで、最も多く決勝に進出したのはドイツ。南米開催のW杯で、欧州勢として初のタイトル奪取に挑む 【写真:ロイター/アフロ】

 イングランドの偉大なストライカーだったゲーリー・リネカーがよく用いる、「フットボールは各チーム11人の選手と1つのボールを用い、常にドイツ人が勝つスポーツである」というフレーズがある。

 恐らくこれは大げさすぎる定義ではあるが、無視すべきものでもない。大きく過去にさかのぼる必要はなく、1974年のドイツ大会から現在に至るまでの11回のワールドカップ(W杯)を振り返るだけでも、準決勝まで勝ち残ったチームのほとんどが伝統あるフットボール大国ばかりであることが分かるからだ。

 もちろん70年代のポーランド、90年代のブルガリア、クロアチア、近年のスペインなど、1〜2人のスター選手とともにその他の国が興隆を極めた例外はある。そして、地元開催の大会で躍進した02年大会の韓国などもそうだ。

 だがこの11大会において最も多く準決勝に進出したのはドイツの8回で、ブラジルの6回、イタリアとオランダの5回、フランスとアルゼンチンの4回が続く。それはいずれも偶然ではなく、心理学的な要素や伝統国における国家とフットボールの関係など、いくつかの基本的な要因が存在している。

ベスト8が限界のサプライズチーム

 W杯ではいつも開幕当初にサプライズチームが現れる。今大会で言えばコスタリカやコロンビア、アルジェリア、米国などの健闘が世界の注目を集めたわけだが、それら伏兵チームの躍進は伝統国と呼ばれるチームと対戦するベスト8までに終わりを迎えることがほとんどだ。

 その原因を検証するためには心理学者の分析が必要になる側面もありそうだが、1つはっきりしていることがある。それは伝統国とそうでない国の間にある、W杯において求められる『ノルマの違い』だ。

 ベスト8進出で限界を迎えるこれらの伏兵チームは、もちろん他のチームと同様にW杯優勝という夢を抱いているのだが、実際にはある程度勝ち進んだ段階で意識せずとも満足してしまう傾向がある。目指す決勝トーナメント進出を果たした彼らは、たとえ敗れても批判されることがないだけでなく、義務を果たしたという確かな達成感とともに大会を去ることがほとんどだ。

 今大会では特にコロンビアがそうだった。出場各国の中で最もボール扱いに長けたチームの1つであり、ハメス・ロドリゲスのような世界的に絶滅傾向にある貴重なゲームメーカーを擁したこのチームには、もっと上を目指すべきポテンシャルがあった。しかも彼らには、完全アウェーの状況でブラジルと対戦する不運があった。もし相手が開催国ではなく、他の場所にて異なる条件の下で対戦していたら、ブラジルに勝てていたチャンスは十分にあったはずなのに。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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