クビトバが“魔法”の中にいた55分=ウィンブルドンテニス
「プリンセス」を圧倒したクビトバ
3年ぶり2度目の優勝を飾ったクビトバ。この日は「マジックだった」と振り返るように、圧巻の試合内容だった 【Getty Images】
目の色が違った。
クビトバは立ち上がりから、182.9センチの長身でブシャールを抑え込むようにこん身のパワーを放出。広いセンターコートに長い手足を自由自在に振り回してゲームを主導した。ブシャールはここまでの6試合で1セットも落としていない。しかし、4試合は第1セットで手こずって12ゲーム以上を戦ってきた。失う物がない若い挑戦者を相手に避けなければならないのは、その気にさせてしまうことだ。若者が先手を奪えば、満場の大観衆は新しいヒロインの側に回る。出鼻をくじき、考えさせ、経験の差を生かす、それが3年前に女王の座に就いたクビトバには分かっていたのだろう。
第3ゲーム、左利き特有のバックハンドのダウンザライン(サイドラインに沿ってストレートに打つこと)、フォアハンドの角度の良いクロスがブシャールのバックサイドを襲った。特に30−30からの2本のバックハンド・ドライブが強烈な印象を残してサービスブレーク。ブシャールもそこから必死に突破口を探るのだが、クビトバのパワーは試合が進むにつれて威力を増していった。
「とにかく、相手が良すぎた。自分のテニスをできるとは思えなかった。ペトラは、まったくラリーをさせるチャンスをくれなかった。こういうことも、時にはある」
第4ゲーム、ブシャールが懸命に打ち合いに持ち込んでチャンスをつかもうとしたが、2度のジュースの末にかわされると、ボール支配率は完全にクビトバだ。第7ゲームを再びブレークして5−2。第8ゲームをブレークバックされたものの、続く第9ゲームを余裕で奪った。
女子の3セットマッチは、第2セットのちょっとしたポイントの流れで逆転する。しかし、この段階でセンターコートは完全にクビトバの世界だった。ブシャールがライン際に飛ばしたショットを、追いかけ、崩れた体勢からさらに角度をつけてクロスに決める……。
「生まれて初めて、私ってすごい! と思った。よく足が動いていたし、どんなボールも打ち返した。自分がゾーンに入っていたと思うし、それは決勝の舞台だったからでしょう」
第2セットに、ブシャールが奪ったポイントは10ポイントだけ。0−6というスコアは昨年3月のマイアミでマリア・シャラポワ(ロシア)にやられたくらいで、プロ入りしてからは見つからない。とんとん拍子で勝ち上がってきた「プリンセス」が最後に鼻をへし折られた感じだが、グランドスラム、ましてウィンブルドンの頂点はそう簡単に手に入るものではないことをあらためて思い知らされた。
コーチ、両親の支えでつかんだ3年ぶりの戴冠
試合が終わり表彰までに小休止があった。雨に備えて屋根を閉め、表彰式の始まりと同時に激しい雨が屋根を叩いた。試合時間は55分。もう少しもつれていたら、雨による試合中断は必至だった。そうなっていたら……いや、それでもこの日のクビトバの勢いを止めることはできなかっただろう。
「あれはマジックだった。私がゾーンに入れば、何でもできる。これからはもっとゾーンに入れるようにしましょう」
今大会は、第1シードのセリーナ・ウィリアムズ(米国)、第2シードのナ・リ(中国)が3回戦で、第4シードのアグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド)とシャラポワは4回戦で姿を消した。ベスト8にチェコ勢が3人、芝に有利とされる左利きが4人残り、若手のなかではシモーナ・ハレップ(ルーマニア)とブシャールだけが全仏のクレーコートに続く活躍を見せた。全仏に引き続き、波乱が続いている。夏のハードコートの戦いはますます熱くなることだろう。
(文:武田薫)
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