ポゼッションサッカーはまだ終わらない ドイツ・レーブ監督の施した戦術の微調整

中野吉之伴

フンメルスのゴールで勝利をつかむ

フンメルス(写真)のゴールで勝利したドイツ。ドイツの選手たちはプレーインテリジェンスを持ち合わせている 【写真:ロイター/アフロ】

 序盤、ポゼッションの質が上がったドイツに対してフランスは中盤のスペースを注意深く埋めて対抗。しかしGKマヌエル・ノイアーも含めてポゼッションできるドイツには、これまでのようにプレスを掛けることができない。スピードに難があるジェローム・ボアテング、ベネディクト・ヘーベデスの裏のスペースをうまく狙って惜しいチャンスは作りだすが、復帰したフンメルスが最後のところで必ずブロック。一方、クローゼを起点に攻撃を組み立てるドイツは徐々にリズムをつかみだし、13分に先制に成功する。トニ・クロースのFKから、フンメルスが体をひねりながら素晴らしいヘディングシュートを決めた。

 フランスもベンゼマを中心に素早い攻撃でGKノイアーの牙城を脅かそうとするが、この日のドイツは非常にコンパクトで粘り強い守備でフランスの攻撃を跳ね返していく。何とか守備陣をくぐり抜けても、GKノイアーが好セーブでゴールを死守。1点リードのドイツは慌てずに相手が焦れて出てくるところを狙った。後半には相手守備のずれから生まれたスペースにミュラーやメスト・エジルらが抜け出して好機を演出。途中出場のアンドレ・シュールレが決めていれば、早々に試合を決定づけることができただろう。

対策通りに実践できるプレーインテリジェンス

 今のドイツ代表は4年前のような華麗なサッカーを披露しているわけではない。パーフェクトに機能していたコレクティブカウンターも見られていない。そのためドイツ国内では「このままでは優勝できない」という意見が大多数を占めている。確かに理論上は機能するはずの戦術でも、何が起こるか分からないピッチ上では、選手がその通りにプレーできないことも普通にある。しかしドイツ代表の選手は状況に応じてやるべきプレーを把握するプレーインテリジェンスを持ち合わせている。ここは体を張ってでも止めなければならない場面ではしっかりと相手を止め、無理をしても攻めなければならない場面ではリスクを冒してチャレンジする。理想だけを追い求めるのではなく、成熟したサッカーで結果を残すドイツ。今度こそタイトルに手が届くのだろうか。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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