ポゼッションサッカーはまだ終わらない ドイツ・レーブ監督の施した戦術の微調整

中野吉之伴

ポゼッション志向のチームが敗れる中、準決勝進出を果たしたドイツ。その秘密は、レーブ監督が練り出した戦術のマイナーチェンジにあった 【写真:ロイター/アフロ】

 スペイン代表のグループリーグ敗退とともに「ポゼッションサッカー終えん」を強調する声が増えてきている。ポゼッションサッカーの代名詞だったバルセロナがチャンピオンズリーグ準々決勝で姿を消したことも、その論調を後押ししている。「カウンターサッカーの復活だ」と識者たちはオランダ代表やレアル・マドリーを絶賛しだした。

 そんな中、ポゼッションを基調とするサッカーのドイツ代表が準々決勝でフランス代表を1−0で下し、準決勝に駒を進めている。その秘密はどこにあるのか。ヒントは監督ヨアヒム・レーブが練り出した戦術のマイナーチェンジにあった。

論理的な戦術変更

 今大会、ドイツはサイドバック(SB)のポジションに本職がセンターバック(CB)の選手を起用してきた。その理由の一つに上げられるのが、ブラジルの気候。高温多湿での戦いが予想される今大会では前線から激しいプレスをかけるチームよりも、ある程度守備を固めてからショートカウンターを狙うチームが増えることが予想された。そうした相手に対して高い位置でポゼッションをすれば、カウンターの餌食になる危険が増す。とはいえ失ったボールをすぐに奪いに行く「ゲーゲンプレッシング」で即座にプレッシャーを掛けに行けば、スタミナの消耗が甚だしいだろう。大会を勝ち抜くには不確定要素が多すぎると分析した。またすでにトップチームは「ゲーゲンプレッシング」を狙ってくる相手に対して、どのようにそのプレスをかいくぐればいいのかの対応策も見いだしている。闇雲にプレッシャーを掛け続けるのは得策ではない。ポゼッションという既定路線を崩さずにカウンター対策をするのに、1対1に強い4人のCBを置いたのは論理的な帰結だといえる。

 では攻撃はどうだろうか。守備を固める相手に対していくらボールをキープしたところで攻撃の糸口は作れない。とはいえ闇雲なドリブルや縦パスでは、相手にボールをプレゼントするようなものだ。そこでキープ力と動き出しの良さが長所のトーマス・ミュラーを中心に、攻撃陣の頻繁なポジションチェンジで揺さぶりをかけるやり方を取った。ドイツ代表チーフスカウトのウルス・ジーゲンターラーは「ポゼッション率自体が大切なわけではない。ただボールを持たされているだけでは得点はできない。重要なのはボール・プログレッション(ボールの前進)」と強調していたが、彼らにとって大事なのは「ポゼッションをする」ことではなく、「どのようにポゼッションからボールを前に運ぶか」だ。理想だけを追い求めるだけでは、頂点にたどり着けないことを過去の大会で骨身に染みて知っている。現実的なスパイスを混ぜ込むことで結果を出している。決勝トーナメント1回戦でも素晴らしい抵抗を見せたアルジェリアに苦戦はしたが、相手の一瞬のスキを見逃さずに得点を取り、勝ち進んできた(2−1)。

フランス戦は戦い方をさらに変更

 一方のフランスは予選リーグ3連勝。結果だけではなく、内容的にも非常に充実していた。大会前はエース格のフランク・リベリがメンバー入りできずに不安視されていたが、逆にそれがチームとしてのまとまりを強めたようだ。大勝したスイス戦(5−2)を始め、秩序立った守備から積極的なプレスでボールを奪い、攻撃ではカリム・ベンゼマが抜群の動き出しでボールを引き出し、卓越したキープ力と決定力で圧倒的な存在感を示していた。決勝トーナメント1回戦のナイジェリア戦(2−0)でも、うまく試合をコントロールし、順当に勝ち上がってきた。

 そんな勢いのあるフランスを相手に、ドイツはがらりと戦い方を変えてきた。風邪でアルジェリア戦を欠場したマッツ・フンメルスが復帰したとはいえ、これまで通りの布陣ではビルドアップで相手のプレスを受け、前にボールを運べない事態が危惧された。そこで攻守両面で機能性を上げられるラームを右SBに、そして守備力だけではなく縦への推進力のあるサミ・ケディラ、ゲームコントロールに長けたバスティアン・シュバインシュタイガーをダブルボランチで起用。またフィジカルにも強いCBを置くフランスに対して、しっかりと攻撃のポイントを作れるミロスラフ・クローゼをFWに置いた。

1/2ページ

著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント