書かれ始めたハメス・ロドリゲスの神話 母国の英雄バルデラマが跡継ぎと認めた男

木村かや子

「ファルカオ以上のヒット」と呼ばれる

モナコでは序盤に苦労したハメス・ロドリゲス。しかし、すぐに「ファルカオ以上のヒット」と呼ばれるようになった 【VI-Images via Getty Images】

 ファルカオが小さなけがなど体の問題でプレーを中断し、また早々に他クラブへの移籍を匂わせてミステリアスな欠場を重ねる中、J・ロドリゲスの株はうなぎのぼりに上がっていく。ポルトで知り合った仲のファルカオ、モウティーニョとともに移籍してきた彼に、もともと、ピッチ上での順応を助ける好条件があったのは確かだ。さらに、彼の細君ダニエラは、隣町のチーム、ニースに所属するコロンビア代表GKダビド・オスピナの妹。車で30分弱、電車なら15分の場所に義理の兄までいるという環境は、彼ばかりか家族の順応をも容易なものにした。

 まだ幼さを残す顔に笑みを絶やさないこの好青年は、22歳という若さながら、モナコ参入決定直後に長女サロメの誕生を迎え、いまや一児の父でもある。自信と謙虚さを兼ね備えた彼は、地に足をつけた若者だ。プレー面で言えば、パスの供給者がいなければゴールできない、いわば生粋のセンターFWのファルカオより、チャンスを生み出し、必要とあらば自ら決めることもできるJ・ロドリゲスのような選手のほうが、ある意味で利用価値が高い。彼の獲得が「ふたを開けてみればファルカオ以上のヒット」と呼ばれるようになるには、シーズンの半分も必要なかった。

 もっともそれは、母国コロンビアでは新しい発見ではない。コロンビアの偉人“エル・ピベ(少年)”ことカルロス・バルデラマは、このW杯を待たずして、「コロンビアにはもはやエル・ピベ二世などいらない。なぜならハメスこそが、長いこと代表チームに欠けていた神童だからだ。概してプレーに一貫性があり、並外れた才能に恵まれ、何より私が長年この世界で見てきたどんなプレーヤーよりも熱い情熱を持っている。ハメスは史上最も偉大なコロンビア人プレーヤー、存在する中で最も偉大なプレーヤーのひとりとなる潜在能力を持っている」と明言していた。

「バルデラマさんは、もうかなり前から、僕のことを跡継ぎと呼んでくれていて、僕はそのことをすごく誇りに思っている」。まだあどけなさの残る顔をほころばせ、J・ロドリゲスは言う。「エル・ピベこそ最強だから、彼の言葉には大いに励まされるよ。でも代表にいるのは僕だけじゃない。僕らの強さの秘密は、チームの団結力なんだ」

コロンビア人も驚くその早熟度

 ごく幼い彼が、ユースの試合でCKから直接ゴールを決める映像は、もう長く出回っていた。しかしその才能を知っていた母国の民さえが、J・ロドリゲスが今、ブラジルの地で見せているリーダーシップには、ちょっとばかりうれしい驚きを覚えている様子なのだ。コロンビアの新聞は「わずか22歳の“子ども”がどうやってこうもうまくプレーの方向性を操れるのか?」と歓喜の問いを投げた。ファルカオが大けがで抜けたあとのモナコでリーダーとして浮上したように、彼は今、代表でもけん引車となっている。

 半面、アタックの要ファルカオを故障で欠くコロンビアがそれでも快進撃を見せていること、J・ロドリゲスがファルカオのようなFWの力を引き出すのを天職とするパサーであることから、「ここにファルカオがいたらどんなにすごかったか」という声も聞かれる。しかしいまや代表選手たちには、『もし』について語っている時間はない。

「ファルカオの欠場は大きな痛手だったが、J・ロドリゲスのような選手が輝くチャンスを与えるものでもあった。ハメスは今、彼の歴史書を書き始めた」と言ったのは、代表仲間のカルロス・サンチェスだ。J・ロドリゲス本人は、「僕らには夢がある。やってのけられるかは分からないけど、あとは精いっぱいやるだけだ」といつもの笑顔で言う。対ブラジル戦の結果がどんなものであるにせよ、今、ハメス・ロドリゲスの神話は書かれ始めた。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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