現地の外国人記者が見た今大会の日本代表 開幕前には大きな期待も「正直、失望した」

元川悦子

「日本の守りは集中力がなさすぎる」

ブラジル人記者も「日本の守りは集中力がなさすぎる」と苦言を呈していた 【写真:ロイター/アフロ】

 日本がグループリーグ敗退に向かう最大の転機になったのが、コートジボワール戦後半の逆転劇だった。あの2分間の2失点によってザッケローニ監督も選手たちも自信を失い、最後まで修正できなくなってしまった。その試合をレシフェのアレナ・ペルナンブコで取材していたコートジボワールの国営放送『TV RTI』のスポーツ報道担当のオリビエール・ムサ氏も「日本は早い時間帯に見事な先制点が入って、逆に守勢に回ってしまった。しかしその守備が予想外にもろく、(ディディエ・)ドログバやヤヤ・トゥーレらわれわれの攻撃陣のパワーに押し切られた。高いレベルの国際経験値は、われわれの選手の方が上。その差は大きかったと思う」と語っていた。

 コロンビア戦でアドリアン・ラモスにPKを与えた今野泰幸も「自分たちが我慢しきれなかった」と落胆の表情で語っていたが、一度劣勢に回った時に守備が崩されてしまうというのは前々からの課題だった。その象徴が昨年6月のコンフェデレーションズカップ。日本はブラジル、イタリア、メキシコにトータル9失点し、3戦全敗を喫した。この大会と今回のW杯の日本代表の戦いを連続して見ており、FIFAクラブW杯などでたびたび日本を訪れている日本通のブラジル人フリーランス記者、フェルナンド・バレイカ氏(日刊紙『Metro』に寄稿中)も「日本の守りは集中力がなさすぎる」と苦言を呈していた。

「今回の日本には大きな期待を寄せていて、レシフェまでコートジボワール戦を見に行ったが、試合結果には正直、失望した。ホンダのゴールでリードしていたのに、ドログバが入ってきた途端に崩れた。今のドログバはプレミアリーグ得点王を取っていた頃の輝きも鋭さもない。それでも崩されてしまうのは、守りに入った時に自信を持って戦えないから。そういう部分を含めて、集中力が欠けているのではないかと思う。
 昨年のコンフェデ杯のブラジル戦でも、日本は1失点した後、ズルズルと失点を重ねた。その課題をザッケローニは1年かけてしっかりと修正しなければいけなかったのにできなかった。プレッシャーのかかる状態でも普通のプレーができなければ、W杯では勝てない」と彼は語気を強める。

 日本のメディアの間では、パワープレーや岡崎慎司の左サイド、1トップ起用、あるいは大久保嘉人の先発抜てきなど、今大会のザッケローニ監督の采配を疑問視する声が高まった。しかし、バレイカ記者は「ザッケローニはイタリア屈指の戦術家として知られている。それでも采配ができなかったのは、チームに何か問題があったのではないか」と見ている。

改めて知らされた育成の重要性

「ザッケローニはセリエAのACミラン、インテル、ユベントスのビッグ3で指揮を執り、ウディネーゼ時代には4−3−3システムを使いこなしてプロビンチャ(地方クラブ)を躍進させた戦術家。日本でも事細かく約束事を教えたと聞いている。それを本番で実践できなかったのは、監督自身にも問題はあるかもしれないが、選手の能力が足りない部分があったのかもしれない。

 日本は98年フランス大会に初参戦してから、2002年日韓、06年ドイツ、10年南アフリカ、そして今回と5回連続でW杯に出場。次の18年ロシア大会にも出れば、選手が3世代代わることになる。そこで今のホンダやカガワ、ナガトモ(長友佑都)ら以上のタレントが出てくるように、下の年代からの育成を強化しなければいけない。実際、今回の日本は若い世代の選手があまり出ていなかった印象が強い。

 例えば、コロンビアを見ても、J・ロドリゲスは自国開催だった11年U−20W杯のエースとして母国を準々決勝へと導いている。そのまま海外へ出て経験を積み、代表チームの10番を背負うようになった。アルゼンチンのメッシにしても、かつてはU−20W杯で活躍した。スーパーな可能性を秘めた若手が年代別代表や海外リーグで戦うことでタフになり、どんな重圧の中でも国を背負って戦えるようになる。ザッケローニの指導にも限界はあるだろうし、やはり大事なのはこの失敗を踏まえて、どう新たな選手を育てていくかだと思う」
とバレイカ氏は日本の現状を踏まえつつ、育成の重要性を改めて強調していた。

 実際、日本の場合はクラブ側の事情や海外移籍選手の増加によって年代別代表の活動が年々やりにくくなっている。遠藤保仁ら黄金世代が10代だった頃は、U−17、U−20、U−23代表を経てA代表になるのが順当な流れだった。だが、ロンドン世代を見ると、宇佐美貴史(バイエルン・ミュンヘン、ホッフェンハイムに在籍し、現在はガンバ大阪でプレー)や大津祐樹(現VVVフェンロー)など予選期間中にすでに海外クラブへ移籍する者もいて、日本国内の活動や海外遠征に思うように選手を呼べないケースも多かった。こうした環境の変化も加味しながら、卓越した個の力を持ち、試合を決定づけられる仕事のできる選手をいかにして育てていくかを今、われわれは真剣に考えるべきだろう。

 外国人メディアがストレートに語った日本代表の現状から目を背けることなく、前向きな方向に生かすべき。そうすることで、日本のこの先のW杯成功が見えてくるのではないだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント