クラシカルな“10番”の少ないW杯 質の高いフットボールが見られぬ危惧

ボールポゼッションを捨てた強豪チームたち

ポゼッションサッカーの代表国だったイタリアもグループステージ敗退。12年のユーロ決勝進出国がともに16強へ進めなかった 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 今大会最大のサプライズチームであるコスタリカは珍しいチームだ。コロンビア出身のホルヘ・ルイス・ピント監督は、「イタリア流の組織的守備と、マイボール時は選手たちが自由にプレーするスタイルのミックス」とチームのスタイルについて説明している。史上初めてベスト8に勝ち進んだ彼らは、やはり数少ないクラシカルな10番であるウェスレイ・スナイデルを擁し、前線にトップレベルのクラックをそろえるオランダと対戦することになった。

 一方で明確に攻撃的スタイルを打ち出し、ボールを保持して考えながらプレーするタイプのチームはほとんど見当たらず、ほとんどのチームがパワーやスピード、インテンシティー(プレー強度)、運動量、組織力、精神力といったものを武器に戦っている。これらのチームに共通しているのは、いずれもボールポゼッションを通してゲームの主導権を握ろうとしないことだ。

 ポゼッションスタイルの象徴であるスペインが惨敗に終わり、その後継者候補だったイタリアも敗退とともにチェーザレ・プランデッリ監督が辞任してしまったことは、W杯後のプレースタイルのトレンドに影響を及ぼすことになるかもしれない。

 共に2年前のEURO(欧州選手権)2012では決勝まで勝ち残ったスペインとイタリアが早々に姿を消し、南米王者のウルグアイもベスト16で敗退した。そのウルグアイと2011年のコパ・アメリカ決勝で対戦したパラグアイに至っては、本大会に出場することすらできていない。

地元アメリカ大陸勢が主役のW杯

 現代のフットボールは変化のスピードが早すぎる。ゆえにどの国もチームとして質の高いフットボールを目指すのではなく、シンプルなプレーに徹する中で特定のクラックにチームの浮沈を委ねる傾向が強くなっている。

 求められるのは生産性の高さであり、いくつかの例外はあるものの、ピッチ上で娯楽性や遊び心を表現する余裕はなくなってしまったのだ。

 とはいえ、嘆いてばかりいても仕方ない。世界最大のお祭りにはまだまだ続きがあるのだから。

 エクアドルとホンジュラスを除き、北中米カリブ海と南米からの出場8カ国が16強入りを果たした今大会は、これまでのところ地元アメリカ大陸勢が主役のW杯となっている。

 一方でアフリカ勢はナイジェリアとアルジェリアがグループリーグを突破したものの、共に決勝トーナメント1回戦で敗退。アジア勢は1勝も挙げることなく、グループリーグで全滅となった。

 ヨーロッパ勢は6チームが16強入りを果たしているが、過去7度の南米開催のW杯においてヨーロッパのチームが優勝したことは一度もない。はたして今大会でその前例が覆される可能性はあるだろうか?

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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