偶然ではない「フォルタレーザの奇跡」 コンディションの重要性を知るオランイェ

中田徹

誤算だったデ・ヨングの負傷交代

途中出場したフンテラール(右)の1ゴール1アシストの活躍でメキシコに逆転勝利。攻撃的な采配でベスト8進出を決めた 【写真:ロイター/アフロ】

 赤道直下の町、フォルタレーザの灼熱の太陽のもと、コンディションで勝ったオランダがメキシコを終盤の大逆転で2−1とし、ベスト8進出を決めた。88分のウェスレイ・スナイデルの同点ゴールから始まり、アディショナルタイム4分のクラース・ヤン・フンテラールのPKで試合をひっくり返した大熱戦を、オランダの全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』は「フォルタレーザの奇跡」と報じた。

 メキシコ戦でもオランダは5−3−2という守備にアクセントを置いたフォーメーションで試合に入った。しかし、初戦のスペイン戦(5−1)、2戦目のオーストラリア戦(3−2)が2トップのアリエン・ロッベン、ロビン・ファン・ペルシ、1シャドーのスナイデルによる『ゴールデン・トライアングル』を前線に残す戦術を採ったのに対し、最近2試合はスナイデルをより純粋な中盤として起用し、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ナイジェル・デ・ヨングとトリオを組んで相手の中盤をマンツーマンで消す、汚れ役を務めている。

 ところがメキシコ戦では、そけい部を痛めたデ・ヨングが、9分にベンチに退くアクシデントがオランダを襲った。ジョナサン・デ・グズマンとの比較で悩んだ結果、ルイ・ファン・ハールはDFブルーノ・マルティンス・インディを投入し、センターバックを務めていたダレイ・ブリントをデ・ヨングの位置にコンバートした。その結果、中盤のマークにあいまいさが生まれ、メキシコのボール回しに対してラインが下がってしまったため、ミドルシュートを許すという現象が生まれた。後半開始早々の48分、ジオバニ・ドス・サントスに鮮やかなミドルシュートを決められて、メキシコに先制されたのは偶然ではない。

システム変更を可能にしたカイトの“機能テクニック”

 ここからファン・ハール監督は動く。56分にメンフィス・デパイを左ウイングの位置に投入し、5−3−2からオランダ伝統の4−3−3に切り替えた。オランダは試合のイニシアチブを奪うことに成功したが、57分のステファン・デ・フライのシュートがメキシコの守護神ギジェルモ・オチョアのスーパーセーブに遭うなど、ゴールが遠かった。

 そこで指揮官は75分から3分間与えられた給水タイムを有効活用し、ファン・ペルシを下げ、クラース・ヤン・フンテラールを投入した。ディルク・カイトを前線に上げて、2人のゴール嗅覚を生かすよう選手に伝え、 オランダは4−2−4にスイッチした。これが功を奏し、88分にフンテラールのアシストからスナイデルが同点弾を決めると、再びファン・ハール監督は4−3−3に戻して戦った。最後はロッベンが倒されたPKをフンテラールが決め、オランダがメキシコに競り勝った。

 9分に交代カードを一枚切ってしまったオランダだったが、それでも5−3−2、4−3−3、4−2−4、4−3−3とフォーメーションを目まぐるしく変え続けることができたのは、カイトという希有な選手の存在が大きい。左ウイングバックとしてメキシコのパウル・アギラルとのマッチアップから試合をスタートさせたカイトは、56分から右サイドバック(SB)、76分からストライカー、89分から再び右SBとポジションを転々とさせた。

 彼は決してボールタッチが柔らかい選手ではないが、試合の場で通用する“機能テクニック”と呼ばれる、実践的な技術の持ち主だ。相手を巧くブロックして、しっかり自分の間合いでボールを持つことが非常に巧い。さらにハードワーク、スタミナ、戦術実践力、ストライカーとしてのゴールへの執念といった複合的な能力が、たった2枚しか戦術交代のカードを切れなかったファン・ハール監督の采配を助けた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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