ラグビーW杯と東京五輪をセットで考える 重要なのは「おもてなし」
2大会をつなげるストーリーが必要
ノンフィクションライターの松瀬学氏がラグビーW杯と五輪の共存に関する講演を行った 【スポーツナビ】
松瀬氏はまず、ラグビーW杯と五輪という2つのビッグイベントが、同じ国において2年連続で行われるのは史上初であると説明。その上で、「こんな時代に生まれて、東京にいるというこの喜び、こんな幸運はない。だから、この2つのイベントにみんなで参加してもらいたいんです」と、2つの国際的なビッグイベントに懸ける思いを明かした。
また、松瀬氏は「僕はこの2つはパッケージだと思っています。19年にラグビーのW杯でワーッと盛り上がって20年東京五輪・パラリンピックになだれ込む。この2つをつなげるストーリー性が必要だと思っています」との見解を示した。しかし、その2大会をつなげる明確なテーマが、まだ今はないと指摘する。知恵を結集し、一緒に行動しましょうと呼びかけた。
ラグビーW杯は“絆”、五輪は“平和”
松瀬氏いわく、ラグビー文化とは“絆”である。“One for All”である。この絆を残すことに、W杯開催の大きな意味があるという。
松瀬氏がこう考える背景には、あるエピソードがある。2011年ニュージーランド大会の取材時、地元の方に「ラグビーW杯を開くメリットは何か?」と尋ねたところ、「Together」という言葉が返ってきた。
「その方は「W杯に向けて、その町の子供、大人、年配の方が一つに(Together)になる。そして大会を開けば、世界の人たちと地元の方たちが一つになる。チームも一つになる。それがレガシー(遺産)として残る。その後もずっと絆が残るのです」と、こうおっしゃったんですね。なるほどと思った。自分の体験を考えても、僕は、W杯のキーワードは絆だと思っているんです」
一方の五輪開催の目的は“平和”だ。現在はメダルや記録、国の威信を懸けた世界最高峰の大会という認識が強いが、近代五輪の父、ピエール・ド・クーベルタンの願いはその根底にあるオリンピズムや人生哲学にあるという。もともとクーベルタンはフランスの教育者だった。勉強したのが英国のパブリック・スクールのあり方だった。20歳のとき、ラグビー発祥の地、ラグビー校(ロンドン郊外)にも勉強にいっていた。オリンピズムのベースにはきっと、ラグビー精神が宿っているのだ。
「われわれがふだん言う“オリンピック”は、いわゆる“オリンピック・ゲームズ(大会)”ですね。でも、もっと大切なのは“オリンピズム”の精神。スポーツを通じて、肉体・精神・知性のバランスの取れた人間をつくり、国際理解、世界平和を推し進めていきましょうという考え方です。そして、平和建設を目指し、日々運動しましょうというのが“オリンピック運動(オリンピック・ムーブメント)”です」
その上で松瀬氏は、「オリンピック・ゲームズで勝つことは目標でしょうけれど、大きな目的は平和運動です。参加することに意義がある。勝利ではなく、闘うことが重要なのです。こういうようなことを理解して五輪のこともいろいろ考えていただきたいですね」と、五輪運動のより深い面にも着目してほしいとの考えを示した。
2大会が共有しているもの、異なるもの
「オリンピック・ゲームズの価値はいろんなものがあります。“Excellence(卓越性)”“Frendship(友情)”“Respect(敬意)”“Fairplay(フェアプレー)”です。これはラグビーW杯も似ています。フェアプレーは、ラグビーのモットーですよ。“ノーサイド精神”ですから」
また、レガシーを残すこともこの2大会に共通して必要なことだ。松瀬氏が力を込めて語る。
「(15年W杯イングランド大会と19年W杯日本大会での)ラグビー日本代表の目標は準々決勝進出ですね。でも目的は、向こう10年、50年、100年のラグビーを盛り上げるためのジャンピングボードにすることです。そして平和です、友情です。アジアを1つにする。こういったものがレガシーとなります。(そのために)どういったことをやるかというと、スポーツの力を再確認することです。スポーツの力とは生きる喜び・生きる力のこと。それを再確認して、ラグビーの価値、五輪の価値を高めていくんです」
その一方で、実際的な部分を見ると、ラグビーW杯と五輪では大きく異なる。ここで松瀬氏は、スクリーンに映し出された19年W杯と20年東京五輪の対比表を示しながら、具体的な数字などを交えて説明した。例えば、開催地は、W杯は国単位だが、五輪は1都市で行われる。期間もラグビーW杯が約1カ月半続くのに対して、五輪は2週間強だ。そのほか、マーケティング規模、開催経費などで大会規模を比較し、差異が述べられた。
忘れてはならない被災地復興
どちらのイベントでも、被災地復興は忘れてはならないと松瀬氏は訴えた 【スポーツナビ】
そして、忘れてはならないのが、東日本大震災からの復興だ。特に子供たちにとって、ラグビーW杯開催は大きな励みになると松瀬氏は訴える。
「(被災地でありラグビーW杯の開催候補都市でもある)岩手県釜石市で講演した時、中学生の女の子が僕に声を掛けてきたんです。その子はプロップをやっているらしく「どうすればスクラムが強くなりますか?」と(笑)。その子の夢は、19年に釜石でラグビーW杯に触れて、20年東京五輪で7人制ラグビーの日本代表となって活躍することだというんです。(ラグビーW杯、東京五輪を通じた)このキャンペーンの中で、そういった子供たちが1人でも増えていくということが、(地元開催という)とてつもない幸運のメリットだと僕は思います」