五輪銀・竹内智香が語る海外挑戦の意義 スイスで学んだ「勝ちにいく」精神

小学館編集部

帰国して気付いたこと

フィジカルにはまだ伸びしろを感じる。だからこそ竹内は競技を続けようと思うのだという 【佐々木孝憲】

――12年にスイスチームを離れました。日本への帰国を決意した理由は?

 5年経つと、入ったときは一番年下だった私が、チームの中でリーダー的存在になり、私主体のチームになりつつあることに気付き始めました。チーム内のバランスが取れなくなってきているなと感じたのです。そこで、数々のメダリストを育ててきた、オーストリア人コーチのフェリックス・スタドラーと個人契約を結びました。スイスチームの中で、私の専任コーチやスタッフ全員を連れてフルシーズン常駐するとなると、チームメンバーには申し訳ないなと思いました。シーズン最後のミーティングで、私はA4三枚にわたるドイツ語の手紙を書いて、みんなの前で読み上げました。感謝の気持ちだけでなく、スイスチームの問題点についても話して、私もみんなも涙を流しました。でも、正直に自分の気持ちを伝えたことで、今でもスイスチームといい関係が築けているんだと思います。

――帰国してあらためて分かった、海外生活の良い点、問題点は?

 良い点はたくさんありすぎます(笑)。問題点は……うーん、いくら溶け込めたとしても、最終的にはアウェーということかな。

――競技を続けていく上で、海外経験が日本でどう生かされていると思いますか?

 いい意味で、自分の考えをはっきりと、正直に、自分の言葉で言えるようになったと思います。日本では強気な発言をすると、どうしても生意気と捉えられがち。もちろん、日本の謙虚さや優しさの良さは分かっていますが、時には言いたいことを言って、ぶつかることも必要だと思います。

――自身の経験を踏まえて、アスリートは海外に出るべきだと思いますか?

 日本の環境で強くなれるのであれば、あえて海外に行かなくてもいいと思います。

“ホーム”の平昌では金メダルを

4年後の平昌五輪では、ソチの銀を上回る金メダルを目指す 【写真:ロイター/アフロ】

――今後の展望をお聞かせください。4年後の韓国・平昌(ピョンチャン)五輪への挑戦は?

 金メダルを取ったら、あるいはメダルが取れなかったら、ソチ五輪で私は引退していたと思います。中途半端な銀メダルであったことで、次の目標ができたことは事実です。4度の五輪を経験して、4年間でどういう環境をつくっていけば勝てるかということは分かったので、その環境さえつくれれば、平昌では金メダルを取れるのではないかと思います。アジアで開催される五輪だから、私にとってはホーム。そして、平昌の雪はすごいアイスバーン(斜面が氷のように硬くなった状態)。アイスバーンが大好きな私は、有利だと思います。

――今、30歳。年齢による肉体の衰えは感じていませんか?

 4年後、出場できたとしたら、肉体の衰えはまったく感じていないと思います。私は、ソチ五輪前の12年から本格的にフィジカルトレーニングに取り組んできましたが、トレーニングをしていく中で、「自分の伸びしろは、まだ山のようにあるな」と気付いたんです。

――そう言い切れるのはすごいことですね。

 コーチを始めとするスタッフ、温かく応援してくれるスポンサーの方たちに支えられて、今の私は最高に楽しい人生だなと思っています。でも、誰かのために頑張るというのではなく、純粋に自分のために頑張ると決めているから、気持ちも強く持てるんだと思います。
「勝ちたい」ではなく「勝ちにいく」。「何とかなる」ではなく「何とかする」。スイスに行ったことで、私は、そういう強い気持ちで、常に上を目指せるようになったのだと思います。

プロフィール

竹内智香
1983年12月21日、北海道旭川市生まれ。クラーク記念国際高校卒業。中学生の時に長野五輪を見て本格的にスノーボード競技に取り組む。2002年ソルトレークシティー五輪22位、06年トリノ五輪9位。07年に練習拠点をスイスに移し5年間、スイスチームとトレーニング。10年、バンクーバー五輪13位。12年12月の誕生日にワールドカップ初優勝。14年2月19日、ソチ五輪スノーボード女子パラレル大回転で銀メダル獲得。広島ガス所属。

【スポーツナビ】

【書籍紹介】
竹内智香選手の初の著書『私、勝ちにいきます 自分で動くから、人も動く』(小学館刊)が7月3日に発売。「このまま日本にいては勝てない」と、単身世界最強のスイス代表チームに飛び込み、独学でドイツ語をマスター。一番人気のコーチも直談判をして個人契約。スノーボードイベントも企画・開催し、自らボードの開発・販売にも取り組む。ここまでの行動力はどうしたら身につけられるのか? アグレッシブ思考の秘訣、人や運を引き寄せて目標を達成するためのメソッドがふんだんに詰まった元気エッセイ。

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