元イラン代表監督、ゴトビが語る 勝利なしにも感じたアジア勢の可能性

飯竹友彦

守備的な戦いに受けたショック

W杯でイランは守備的な戦い方を選択。特にナイジェリア戦についてゴドビは「がっかりした」と話した 【写真:ロイター/アフロ】

 そうやってイラン代表を強化し、攻撃的に進化させていったゴトビだっただけに今大会の予選3試合を見てショックを受けたのは間違いないだろう。特に、「個人的にはナイジェリアの試合には非常にがっかりしました」と試合名をはっきり口にした。なぜならば、それまでの大会はすべてがファンタスティックで刺激的な試合ばかりだったからだ。そして、期待して見たかつての仲間の試合。しかし、それは彼が信じたイラン代表の可能性が十分に発揮されていなかった。

「カルロス(・ケイロス)監督と私の考え方は違うと思います。多分、彼はイランはサッカーをやる力がまだ十分ではないと思っています。カルロス監督は守備をしっかりすることを徹底します。全員ゴール前まで下がって、引いてカウンターを狙う。それがこの大会でも見られたのだと思います」

 初戦ナイジェリアに引き分け、第2戦のアルゼンチン相手には最終的には0−1で負けたものの、90分まで0−0という素晴らしい内容を見せた。しかし、勝たなければならない状況になった第3戦のボスニア・ヘルツェゴビナに1−3で敗戦。

「ただ下がって守備するだけのチームにすると、勝たなければならないとき、得点を決めなければならないときに苦しむと思います。それがボスニア戦で表れた」(ゴトビ監督)

これでイラン代表のW杯は終わった。

アジアは成長している

 インタビューを行った26日時点で、イランを含めたアジア勢(日本、韓国、オーストラリア)は1つの勝ち星もなく、11試合で3分8敗という状況だった(最終的には27日に試合のあった韓国も敗れ、3分9敗でアジア勢は勝利なし)。そのことに話が及ぶと、「1回のW杯、1カ月の短い大会の中でアジアのサッカーを判断をするのは難しいと思います。私は01年からアジアのサッカー界で働いています。もう14年にもなりますが、本当に発展していると思います」とゴトビはこちらのネガティブ思考をさえぎった。

 そして、94年W杯米国大会に出場できなかったフランス代表を例に上げた。フランスは94年の米国大会には出場できなかったが、そこから代表のプログラムを完全に変更した。すると、98年のフランス大会、ユーロ(欧州選手権)2000では優勝と非常に良くなった。02年のW杯日韓大会こそグループリーグで敗退しているが、その後もユーロ2004ではベスト8、06年のW杯ドイツ大会では準優勝と好成績を残している。

 そして、10年W杯南アフリカ大会でベスト16入りした日本だったが、この大会では苦い経験をした。それはイランや韓国やオーストラリアも同様だ。だが、この経験は94年のフランスと同じように成長できる可能性を含んだ良い時期だとゴトビ監督は見ている。

「ノットイージー。でも、アジアは成長している。歴史が長いわけではない。こういった時期もある。一度止まって、やっていることに対して振り返ってみるのもいい。その中でうまく調整しながら、成長に持っていかなければならない。私は3回別々の国(イラン、韓国、日本)でW杯を経験しました。そして、01年から14年間アジアのサッカー界に携わってきています。そして、アジアのサッカーが世界のどことでも戦っていけると思っています」と付け加えた。

日本らしく戦うということ

 そして、インタビューの最後には、ゴトビ監督が日本で乗る愛車を例えに出し、こんな締めの言葉を送ってくれた。

「私はいまトヨタの車に乗っています。いままでたくさんの高級車に乗ってきましたが、どの車よりも一番いい。日本人は謙虚すぎる。もっと自分を信じていい。それはアジア全体にも言えます。いろいろな可能性があります。スペインやブラジルのサッカーをコピーする必要はありません。シャビ(・エルナンデス)、(アンドレス・)イニエスタがいるわけではありません。スペインのようにプレーできるわけでもありません。日本らしく戦うということです。ハードワーク、団結力、スピード、機動力、そして技術。それがわれわれのサッカーです。

 イランもポルトガルではありません。(ジョゼ・)モウリーニョさんのようなサッカーでなくてもいい。イランには攻撃、個の質もあります。しかし、3試合で勝ち点1しか取れていない。それで満足してはいけない。始め方と終わり方として、われわれには成長する機会があるんだと思えばいい。今、われわれのサッカーがどういう位置にあるかということから学べばいい。私は(アジアの)可能性を100パーセント感じている」

 インタビューの中では各国の準備段階の状況や、精神面などでの成長が不可欠なことなどあえてネガティブな部分も口にしてくれたが、総じてアジアにはポジティブな要素が多くあること、あと10年でアジアが世界に通用する可能性は十分高くなると力説してくれた。イラン代表だけでなく、日本代表、韓国代表にも長く関わりを持ったアフシン・ゴトビ監督だからこそ、それぞれのネガティブな側面すらもポジティブに捉え見ることができたのかもしれない。

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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