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絶対的エースが直面した人生最大の挫折
それでも本田圭佑は前を向く

「ミラクルは信じている者にしか訪れない」

グループリーグ敗退が決まり、うなだれる本田。「W杯優勝」という壮大な目標に挑んだが、本調子には程遠く、不本意な結果に終わってしまった
グループリーグ敗退が決まり、うなだれる本田。「W杯優勝」という壮大な目標に挑んだが、本調子には程遠く、不本意な結果に終わってしまった【写真:ロイター/アフロ】

「自力で突破することはできなくなりましたけど、今は奇跡を信じてますし、コロンビアに勝つことに集中はしてます。自分が発言してきたことが叶う可能性もゼロじゃないっていう信念は今は曲げるつもりはない。それがあったから今も頑張れるし、言ってきたことを実践するのはむしろ今だろうと自問自答してるつもりです」


 コートジボワールにショッキングな逆転負け(1−2)を食らい、続くギリシャ戦でも攻めあぐねてドロー(0−0)と、わずか勝ち点1で24日(現地時間)のワールドカップ(W杯)・ブラジル大会グループリーグ最終戦・コロンビア戦を迎えることになった日本代表。その最終決戦を2日後に控えたベースキャンプ地のイトゥで、本田圭佑は決勝トーナメント進出を頑なに信じていた。客観的な確率は10パーセント以下という厳しい状況にもかかわらず、彼は「ミラクルは信じている者にしか訪れない」と強調。4年前の南アフリカ大会同様、自らが勝利の原動力となって、チームを2大会連続のベスト16へ連れて行くという強い意気込みを見せていた。


 夜になると肌寒いほど冷涼なイトゥと、日中の気温が35度を超えるクイアバでは気候が全く違う。加えて、アレナ・パンタナウのピッチ状態は芳しくない。過酷な戦いを強いられるのは間違いなかったが、リスクを冒してでも勝ちに行くしかなかった。22日に異例のオフを取り、自らのメンタル面を整理したとみられるアルベルト・ザッケローニ監督も、ここ一番で大久保嘉人を1トップで先発させ、縦への意識の強い青山敏弘をボランチに抜てきする秘策を講じた。

前半終了間際に見せた一瞬の輝き

 大挙して訪れたコロンビアサポーターによってアウェームード一色となる中、キックオフされたこの試合。立ち上がりは相手の個人技とスピード、鋭さに戸惑い、日本は守備組織を崩されそうになった。それでもすぐに立て直し、主導権を奪い返す。そして開始7分、本田に最初のFKのチャンスが訪れる。南アフリカ大会の第3戦・デンマーク戦では彼の左足から放たれた無回転シュートが決まり、16強入りに大きく前進しただけに、その再現を狙いたかった。だがここ最近、FKから直接ゴールを決めていない彼のキックは壁を直撃。枠を捉えることはできなかった。


 前半17分に今野泰幸がアドリアン・ラモスを倒して与えたPKをフアン・クアドラードが決めて1点をリードされた後も、本田には好位置でのFKのチャンスが何度か訪れたが、どうしても精度を欠く。前半はCKのチャンスも6本あったが、それも生かせない。「こういう大会はセットプレーで取れたらすごく楽なんだけどね」と、右サイドで奮闘した内田篤人も悔しそうだったが、本田の左足は沈黙したままだった。


 流れの中でも、暑さと疲労で動きが重いせいか、本田は思うように得点機に絡めない。それでも前半アディショナルタイムに一瞬の輝きを見せる。内田がドリブルで中央へ持ち上がって右に開いた本田にパス。背番号4はこの4年間チャレンジしてきた右からのドリブル突破から、ニアサイドで待ち構えていた岡崎慎司にピンポイントクロスを入れた。次の瞬間、岡崎は得意のヘッドでゴールネットを揺らす。189センチの長身を誇る屈強なDFカルロス・バルデスも反応しきれない見事な1点で、日本にミラクルの可能性が見えてきた。

際立ったコンディションの悪さ

 しかし、コロンビアを率いる智将、ホセ・ペケルマン監督はしたたかだった。温存していた若きエース、ハメス・ロドリゲスを投入し、一気に流れを引き寄せる。そして後半10分、その背番号10が中央で日本のマークを引き寄せ、フリーになったジャクソン・マルティネスが左足を一閃。日本の希望を打ち砕く2点目を挙げる。どこまでも強気の本田も心が折れそうになったことだろう。


 そのビハインドを自らの左足で跳ね返してくれれば良かったのだが、後半19分に訪れたこの日4本目のFKも相手守護神、ダビド・オスピナにはじかれる。このシュートに象徴される通り、コロンビア戦の本田からはゴールの雰囲気は漂わなかった。試合を通じてペナルティーエリアに侵入する回数が極端に少なく、シュートを打たせてもらえない。とにかくコンディションの悪さばかりが際立ち、すさまじいゴールラッシュを見せた2012年6月のアジア最終予選序盤3連戦や、昨年11月のオランダ・ベルギー2連戦のようなキレや鋭さが全くと言っていいほど見られなかった。


 本田が沈黙し、香川真司が封じられ、一矢報いるゴールを挙げた岡崎が後半途中に下がってしまったのでは、もはや日本が逆転する術は見いだせない。オープンな展開になった後、内田のクロスに反応した大久保がフリーで決定機を迎え、終了間際には柿谷曜一朗も途中出場した43歳のベテランGK、ファリド・モンドラゴンと1対1になるが、それぞれ肝心なフィニッシュを外してしまう。シュート数は23本とコロンビアより10本多く、ボール支配率でも大きく上回った日本だが、結果的には1−4の惨敗。現実はあまりに残酷だった。タイムアップの瞬間、本田は天を仰ぎ、目頭を手で覆うようなしぐさを見せた。「W杯優勝」という壮大な目標を掲げ、絶対的エースとして挑んだ2度目の世界舞台があまりにも不本意な形であっさりと終わってしまったことを、彼は全身で受け止めるしかなかった。

元川悦子
元川悦子

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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