イタリアの早期敗退は必然だったのか 4つの側面から見えたチームの限界

片野道郎

ウルグアイに敗れ、肩を落とすピルロ(右)。イタリアは2大会連続でグループリーグ敗退に終わった 【写真:ロイター/アフロ】

 期待通りの展開だったのは、マナウスでの初戦でイングランドを破ったところまで(2−1で勝利)。続く2戦目でコスタリカに思わぬ苦杯を喫してチームを取り巻く状況が一変し、圧倒的なアウェーの空気の中、大きなプレッシャーを受けて戦ったウルグアイ戦でも、一度傾いた船が立ち直ることはなかった。優勝候補に挙げられていたわけではないにせよ、ベスト8進出を最低目標としていたイタリアにとって、4年前の南アフリカに続くグループステージ敗退は屈辱以外の何物でもない。

 結果的に敗退への分水嶺(れい)となったのは、2試合目のコスタリカに0−1で敗れたこと。この試合には、このワールドカップ(W杯)におけるイタリアの限界がさまざまな面で浮き彫りにされていた。もちろん、最終的に敗退をもたらしたのは、引き分けでもOKだったウルグアイ戦での敗戦だが、この試合にこれだけ追い込まれた状況で臨まなければならなかったこと自体、すでに「棺桶に片足を突っ込んでいた」も同じだった。
 以下、早期敗退の原因を戦力、戦術、フィジカル、メンタルという4つの側面から考察してみよう。

「世界に通用しなかった」攻撃陣

 戦力的に見れば、最大の原因は攻撃力の低さということになるだろう。3試合でわずか2得点、そのうちFW陣が挙げたのはイングランド戦でのマリオ・バロテッリの1点だけという事実は重い。問題のコスタリカ戦でも、そのバロテッリが前半に得た2度の決定機を決められず、途中出場したアントニオ・カッサーノ、ロレンツォ・インシーニェ、アレッシオ・チェルチに至ってはシュートすら放てなかったことが、敗戦の主因だった。

 最後のウルグアイ戦、チェーザレ・プランデッリ監督はシステムをバロテッリを1トップに据えた4−1−4−1から、前線にバロテッリとチーロ・インモービレを並べた3−5−2に切り替えて状況を打開しようと試みたが、この賭けも機能せず。そのインモービレも含めて、今回招集された5人のFWは、結果的にまったく違いを作り出すことができなかった。日本でよく使われる言い方をすれば、イタリアの攻撃陣は「世界に通用しなかった」ということになる。

 イタリアが独力でチームを困難から救い出すことができるワールドクラスのアタッカー(ルイス・スアレス、リオネル・メッシ、アリエン・ロッベンのような)を擁していないことは当初から明らかだった。このW杯を通じて、バロテッリがそのレベルまで成長することに大きな期待がかけられていたわけだが、残念ながらその期待が満たされることなく終わった。

 その観点から見れば、1月に負ったひざのじん帯損傷による長期離脱から直前に復帰したジュゼッペ・ロッシの招集を、心身のコンディションがまだ100パーセント回復したとはいえないとして見送った指揮官の判断が正しかったかどうか、これからの数日間議論の的になることは間違いない。

痛かったモントリーボの離脱

 戦術的に見ると、イタリアが限界を露呈したのはコスタリカ戦。5バックの最終ラインを大胆に押し上げ、コンパクトな陣形を保ってスペースを埋め、アグレッシブにプレスをかけ続ける相手の前に、生命線である中盤でのポゼッションが分断されて、試合のリズムをコントロールすることができなかった。インテンシティー(プレー強度)で上回る相手をいなすことができるほど、ポゼッションの質が高くなかったという言い方もできる。

 このあたりは、アンドレア・ピルロと並ぶ中盤のキープレーヤーだったリカルド・モントリーボの直前離脱が響いた。中盤やや高めの位置で最終ラインからの縦パスを引き出し、そこから長短のパスでダイナミックにボールを動かすモントリーボは、単につなぐだけのポゼッションで終わらせず、そこから局面を前に進めてフィニッシュへの道をつける上で、きわめて重要な役割を担う存在だった。

 彼の離脱を受けたプランデッリは、基本構想としてきた4−3−1−2を諦め、ダニエレ・デ・ロッシをアンカーに据える一方で、ピルロを一列上げてそれまでモントリーボが担ってきた機能を委ね、中盤を再構築するという決断を下す。しかし、ブラジル入り後の練習試合で試した4−1−3−2で攻守のバランスが確保できなかったこともあり、イングランドとの初戦には、そこからFWを1人削って中盤に回した1トップの4−1−4−1で臨むことになった。

 このイングランド戦では相手が引いてカウンターを狙ってきたこともあり、ポゼッションで中盤を支配できた。しかし相手のプレッシャーが高まってスペースと時間が削られたコスタリカ戦では、戦術的な基盤となるべき中盤の主導権を握ることができなかった。イングランド戦で機能していた(そしてウルグアイ戦でも最も説得力のあるプレーを見せることになる)マルコ・ベラッティをあえて外し、プレーのリズムが遅くプレッシャーに弱いティアゴ・モッタを起用した采配にも疑問符がつく。

 そしてウルグアイ戦ではさらにシステムに手を入れて3−5−2。この布陣は少なくともスアレス、エディンソン・カバーニを抑え込むという意味ではそれなりに機能したが、攻撃の局面ではほとんどチャンスらしいチャンスを作り出せなかったことも事実だ。イタリアにとっては0−0でも十分であり、その意味ではクラウディオ・マルキージオにレッドカードが出されるまでは狙い通りに運んでいたとも言える。しかし、プランデッリがモントリーボの離脱後、チームとしての明確な戦術的アイデンティティーを確立できないまま、最後まで行き当たりばったりの対応に終始したことに変わりはない。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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