3連勝のオランダ躍進の秘訣は“一体感” ベテランの支えに応える若きヒーローたち

中田徹

厳しいグループを首位で通過

3連勝でグループリーグ首位通過を決めたオランダ。チームには“一体感”が生まれている 【写真:ロイター/アフロ】

 オランダはスペイン(5−1)、オーストラリア(3−2)に続き、チリにも勝った(2−0)。強豪ぞろいのB組に入り、グループリーグ敗退も予想されたオランダだったが、3連勝を達成し、下馬評を覆した。

 今大会のオランダを象徴するキーワードが“一体感”だ。スペイン戦の先発メンバーの背番号が1から11まできれいにそろったことに象徴されるように、オランダにはレギュラーメンバーと控えメンバーのヒエラルキーが存在する。それでもルイ・ファン・ハール監督は重要なスペイン戦を目前にし、レギュラーメンバーの練習をダニー・ブリント、パトリック・クライファートの両コーチに任せ、控え組の練習を自ら担当した。彼らの練習強度を高め、コンディションを維持するばかりでなく、「必ず君たちが必要になる」というメッセージも込めていた。

 こうしたムードは決して、たった1日の練習で生まれるものではない。ファン・ハール監督は2年間かけてチーム内マネジメントをしっかりと行い、選手たちを相手にフォア・ザ・チームの雰囲気が生まれる環境を整えてきた。一つひとつのゴールにベンチにいる全員が喜ぶ姿は、ユーロ(欧州選手権)2012の時にはなかったものだ。

 その象徴がクラース・ヤン・フンテラールだと言われている。4年前のワールドカップ(W杯)でも、2年前のユーロでも、正ストライカーの座をロビン・ファン・ペルシに奪われ、その不満を隠せなかった彼は今、試合出場の機会がなくても腐らず熱心に練習に取り組んでいる。

 もう一人のベテラン、ディルク・カイトはチリ戦で左ウイングバックとして仕事を全うした。ブルーノ・マルティンス・インディがオーストラリア戦で脳しんとうを負ったことにより、カイトに突然、慣れないポジションでの出番が生まれたが、対面のマウリシオ・イスラに攻撃参加をほとんど許さなかった。象徴的だったのは、かつて「いくら走っても壊れない」と言われた彼が87分、相手のパスをカットした際に足をつって退場した場面。素晴らしいハードワークを示した、チリ戦の隠れた名シーンだったかもしれない。

しのぎを削る若手CBたち

 カイトに代わり出場したのは20歳の新鋭テレンセ・コンゴロだった。今、エールディビジでは多くの若手センターバック(CB)が生まれている。アヤックスではヨエル・フェルトマン(22歳)、ステファノ・デンスウィル(21歳)。PSVではカリム・レキク(19歳)、ジェフリー・ブルマ(23歳)。そしてフェイエノールトではステファン・デ・フライ(22歳)、マルティンス・インディ(22歳)、コンゴロがベテランのヨリス・マタイセン(34歳)とCBのポジションを競っている。

 彼らは才能こそあるが、経験は無い。だから所属先のチームが勝っては「彼こそオランダ代表のCBだ」と持ち上げられ、負けては「守備もビルドアップも不安定」と落とされた。昨季のエールディビジではシーズン序盤にレキクの株が上がり、中盤でフェルトマンが現れ、終盤にデ・フライが不振から脱した。

 言い方を変えれば、誰一人、CBとしてシーズンを通じて活躍した選手はいなかった。彼らの年齢を考えればそれも仕方ないのだが、代表選手としてはそれでは困る。今のオランダがデ・フライ、マルティンス・インディに、ベテランのロン・フラールを加えて3人でCBを組むのは、それなりの理由があったのだ。 

彼らはたくましいのかもしれない

若手の多いチームをカイトらベテランが支えている。決勝Tでも躍進を続けることができるか 【写真:ロイター/アフロ】

 FWメンフィス・デパイはオーストラリア戦に続き、チリ戦でも途中出場でゴールを挙げた。84分、自陣のFKをブリントが慌てて縦に蹴ってしまって相手のゴールキックになった。そのとき、デパイは左サイドでフリーになっていたカイトを指差し、「あそこに出せば良いじゃないか」と厳しくブリントに注意を促していた。とても20歳とは思えぬ頼もしさだ。

 データを見ると、13−14シーズンのデパイはリーグ戦で12ゴールを決めているだけに、どんなに決定力のある選手かと思われがちだが、PSVの敗戦パターンは試合の立ち上がりに押し込みながらも、デパイらがチャンスでシュートを外し続けて、やがて守備が乱れて失点しておしまいというものだった。昨年12月、フィテッセに1−6と完敗した後、ゴール裏のサポーターに抱きしめられながら泣いた彼の姿は『デパイの涙』として知られている。
 
 今、オランダ代表のユニホームを着て、W杯のひのき舞台に立って活躍する若きヒーローたちは、昨季のエールディビジでその年齢にふさわしくない批判を浴びながら1シーズンを戦ってきた。案外、彼らはたくましいのかもしれない。もちろん、超一流の選手(ファン・ペルシ、アリエン・ロッベン、ウェズレイ・スナイデル)やベテランの鏡のような存在(カイト、フンテラール、フラール、ナイジェル・デ・ヨング)の助けは必要だろうけども。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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