八重樫、9月5日に軽量級最強ロマゴン戦「逆境を覆すのがボクシングの醍醐味」

船橋真二郎

「しっかり練習して奇跡を起こしたい」

9月5日に井上尚弥(写真左)の初防衛戦とともに、軽量級最強の男と称されるローマン・ゴンザレスとの4度目の防衛戦が決まった八重樫東 【船橋真二郎】

 注目の対決がついに正式発表になった。WBC世界フライ級王者の八重樫東(大橋)が軽量級最強と称される世界的強豪を挑戦者に迎える一戦が9月5日、東京・代々木第二体育館で挙行される。

「公言してきたとおり、ローマン・ゴンサレス選手と4度目の防衛戦を行ないます。八重樫が負けるだろうと思われている人が8割方だと思いますが、そういう逆境を覆していくのがボクシングの醍醐味であり、人生の醍醐味。必ず、とは言わないんですが、しっかり練習して奇跡を起こせるように頑張りたい」
 6月23日、同じリングで初防衛戦に臨むWBC世界ライトフライ級王者の井上尚弥(大橋)とともに都内のホテルで会見に臨んだ八重樫は言った。

39戦無敗と正真正銘の最強挑戦者

「最強の挑戦者という言葉はよく使われますが、次の挑戦者は正真正銘の最強の挑戦者。非常に厳しい戦いになるとは思うが、勝てば八重樫の人生が変わる」とは大橋秀行会長。その言葉どおり、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)は紛れもない“本物”である。
21歳のときにWBAミニマム級を、23歳のときにWBAライトフライ級を圧倒的な強さで制した元世界2階級制覇王者。

 39戦39勝33KOという傷ひとつない戦績。対戦相手から敬遠され、ここ5戦はノンタイトル戦つづきで実力に見合った試合にも恵まれなかった“ロマゴン”だが、この6月17日で27歳になったばかりと年齢的にも最盛期はこれからと言える。次から次と流れるように連鎖する連打は一発一発にパワーを秘め、相変わらず脅威だ。

亀海のゲレロ戦に刺激「俺もやってやる」

 3度目の防衛に成功した直後の4月中旬から対ロマゴンをイメージして準備を進めてきた八重樫だが、「映像を見れば見るほど、強いし、穴がないし。どうすればいいのかと困惑している」と暗中模索の日々が続いている。

 それでも、「昨日、亀海が頑張っていましたけど、世界的に有名な選手と日本人が試合をして、負けはしたけど、日本の選手だって強いということを証明してくれたのは刺激になるし、俺もやってやろうという感じ」と会見の前日、ロサンゼルス近郊のカーソンで元世界4階級制覇のビッグネーム、ロバート・ゲレロ(アメリカ)に食い下がった東洋太平洋ウェルター級王者の亀海喜寛(帝拳)の奮闘を引き合いに出し、あらためて自身の強い決意を表明した。

世界王者に大事な勝負に挑む姿勢を体現

 危険な挑戦者に対し、敢えて勝負を挑む道を選んだ八重樫。世界王者の立場ではベルトを失うリスクもあるが、この一戦に関しては「ベルトはあってないようなもの」と言う。「(ベルトを守る、失うよりも)ローマン・ゴンサレスと試合をして、もし勝てたら、そっちのほうが大きい」
 そして、この姿勢こそが昨年4月1日にIBF、WBOという世界タイトル認定団体に承認・加盟し、世界主要4団体時代に突入した日本ボクシング界に求められるものなのではないか。

 単純に13階級、4団体で計算しても、世界王者は52名も存在することになる(ヘビー級までなら17階級、68人)。一つひとつの世界戦の質が下がってしまうことは誰の目にも明らかだ。日本は現在、8名もの現役世界王者を抱えているが、もっとボクシングを盛り上げるためにも、今後は対戦相手や試合内容がより問われてくる。個人的には八重樫とゴンサレスの試合がその傾向を現実に加速させる起爆剤になる可能性を秘めているのではないかと期待している。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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